直感

ノックスの十戒やヴァンダインの二十則に反してしまって大変恐縮なのだが、私には殺人事件の犯人が直感で分かる。 推理も何もあったものじゃない。ワイダニットに納得できるストーリーさえでっち上げれば、あとは証拠なんて警察がいくらでも見つけるし、その後は裁判だ。 名探偵としての私には、犯人の特定と動機の調査の役割だけを与えられていた。 そんな私に課せられた今回の事件の犯人は、 私の、愛娘だった。

森野

12年前

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私は生まれて初めて、自らの直感を真剣に疑った。 あり得ない。 それは探偵としてでなく、1人の親としての感情的な否定だった。それは嫌でもよく分かっている。 だが、自分の娘なのだ。無実を信じるのが親というものではないか。 私は今まで感じた事のない苦しみに、頭を抱えた。 「大丈夫かね?」 よろよろと振り向くと、担当の刑事が立っていた。 本来なら、私はこの時点で犯人の名前を告げているはずであった。

harapeko64

12年前

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「大丈夫です。ちょっと、眩暈がしただけですから。」 「それで、犯人は誰なんだね?」 絶対に言えない。娘だなんて。 たとえ口が裂けても。そのせいで、探偵生命を棒に振ろうとも。 「犯人は・・・」 その場の誰もが唾をのんだ。愛娘ただ一人を除いて。 「この中にはいません。」

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「どういう事かね⁈」 刑事は叫び被害者の妻Y美と被害者友人M雄は顔を見合わせ、家政婦A子はあらあらと呆れた顔をした。 そして、我が娘はチラリと一瞬私の目を見たが直ぐに視線を床に落とした。 その表情から真犯人の確率は100%間違えないと断言出来、私は益々この胸が締め付けられる想いで苦しくなった。 「…つまり、犯人は既に亡くなっています。犯人は、被害者X氏ご自身です」私はいつになく小声で宣言した。

真月乃

12年前

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やっぱり、今回も。 私は泣き出しそうになるのを堪え続けている。 私は神様に呪われている。呪われ続けている。望まない罪を重ね、そして常に裁かれない呪い。 何時だってそうだし、今回もそう。 私は殺したくなんて無かった。なのに、あの人が……! あの人を殺してしまった後は、何時も通り「直感」に身を任せ行動した。 自首なんてする勇気の無い、私に与えられた呪い。 私には完全犯罪をする方法が直感で解る。

ナゾグイ

11年前

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私の父は、世間では有名な探偵だ。 しかし、それと言うのも私が完全犯罪を行う際、高度な心理誘導によって犯人を直感的に示させているからだ。 丹念に偽の証拠を残し、最もシンプルかつ有効な状況で、犯人を「創り上げる」。 それは、犯人すらも自分がやったのではないかと思うほどだ。 私が殺すのは人間のクズで、多かれ少なかれ人に恨まれているので簡単だ。 父が優れているのは、私の作品の仕上げにすぎない。

terry

11年前

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父と目を合わせられなくなった。父は私をあたたかい目で見つめてくれなくなった。 父が探偵を辞めると告げた。 私の罪は父に暴かれないまま、裁かれないまま。 私は探偵を辞めると告げた。娘と目をみて話したかったからだ。 娘の罪を探偵としてではなく、父親としてできることをしようと思っている。 私は、加害者の親なのだ。

11年前

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娘とこうして向き合うのは久々だ。いつも事件に追われていたからだろう。 改まってどうしたの、と微笑む娘の目を覗き込む。その瞬間、私は知ってしまった。 これまで暴いてきた数々の事件の真犯人を。 父が私の目を覗き込む。それは探偵ではなく、父親としての眼差し。 急いで逸らしたけれどもう遅かった。この瞬間、私は知ってしまった。 私の犯した罪が全て暴かれてしまったことを。 さあ、これからどうしようか。

lalalacco

11年前

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恐らく娘は私を殺すだろう。 ここで止めなければ娘は過ちを繰り返す。 やるしかない… 私は内ポケットの万年筆を強く握り締めた。 私の中の直感が、父を殺せと命じている。 この呪いに抗う術を私は知らない。 殺したくない… 血を流し、暖かい眼差しを私に向ける父が居た。 「なぜ…」 「直感に、従ったのさ」 父は自らの死を以って 私の直感という名の呪いに抗い そして私を裁いてくれたのだ。

11年前

- 完 -