僕はかぼちゃのお化け。普段は人里離れたところに住んでいる。 でも、今日は10月31日、ハロウィーンだ。人間もみんなお化けの格好をしているから、僕が紛れ込んでも気づかない。だから人間からたくさんお菓子をもらっちゃうぞ。 まずはあそこの赤い屋根のお家から。玄関には僕そっくりのジャックランタンが飾ってある。うれしいな。 ベルを鳴らすと、すぐにドアが開いた。 「トリック・オア・トリート」
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目の前には僕と同じ背丈の女の子。キョトンとした顔で立っていた。 「と、トリック・オア・トリート」 彼女は急にポンと手を叩くと紙に何か書き始めた。 『ごめんね。しゃべれないの。これ、どうぞ。』 そして紙と一緒に飴玉を差し出してきた。そしてニッコリと微笑む。 「風邪なの?」 彼女はブンブンと首を振る。 『生まれつき』 「じゃ、じゃあさ、僕と一緒に他の家を回らない?お菓子分けっこしようよ」
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すると女の子は困ったように僕の顔と家の中を交互に見た。 「中に誰かいるの?」 『おかあさん』 僕がこっそり家に入ると彼女が寝室へ案内してくれた。薄暗がりの部屋の中で、誰かがベッドに横たわっているのがぼんやりと見えた。 『おかし、たべたら元気になる?』 彼女が不安そうな顔で僕のローブを掴む。 「大丈夫。お菓子は僕らの友だちだから」 『じゃあ、わたしも行く』 こうして二人だけの仮装行列が始まったんだ。
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次 は、赤茶けた屋根のお家。 ベルを鳴らしてみたら、ドアがキィーッと音をだしながら開いた。 「トリック•オア•トリート」 僕は元気良くいった。彼女は後ろでニコニコしながらトリック•オア•トリートと書かれた紙を持っていた。 目の前のお婆さんもニコニコしながら 「イタズラされちゃ困るわい、ほれ持ってけ持ってけ。」と言って たくさんのお菓子をくれた。そのときもみんなニコニコでなんだか気味が悪かった。
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お婆さんのくれたお菓子は袋に入れ、歯をニンマリ見せた気味の悪い笑い顔を携え、僕と女の子は次の家をノックした。 「トリック・オ『お菓子は無いよ!」 悪戯宣言の途中でその失礼は返事は返って来た。 僕と女の子は顔を見合わせたけど、女の子が次に行きましょうと僕の袖を引っ張った。 でも僕はちょっと待ってと言うと、草むらの虫達に命じて鍵穴からどんどん入らせた。 中から悲鳴が聞こえ、彼女は小さく僕は大笑いした。
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空には月と星。蜘蛛の巣や作り物のお化けが吊るされて、庭にはジャックオランタン。 きゃらきゃらと笑い声をあげて、仮装した子供達がたくさんのお菓子で膨らんだ鞄を抱え走り去っていく。 まるで違う世界に迷い込んだみたいだ。 かぼちゃ頭の僕と小さな彼女。普段だったら大人が黙っちゃいないんだろうけど、今日はハロウィン。街の人々は僕らを笑顔で向かい入れてくれる。 でも、楽しい夜はいつまでも続かない。
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『もう帰らなくちゃ』 隣の彼女がしょぼんとした顔で僕に紙を見せた。 街の時計塔の針は0時を指している。鐘の音がハロウィンの夜に鳴り響いて、少し冷たい風が僕らの脚を撫でた。 「そっか……」 なんだか急に肌寒くなってしまった気がする。 僕は今まで貰ったお菓子を、彼女の胸に押し付けた。 「ハッピーハロウィン!」 上手く笑えてるかな。僕はかぼちゃのお化けだから、こんなことで涙は見せない。
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「これ全部君にあげるよ。お母さん、元気になるといいね!」 『いいの?』と少し驚いた顔をする彼女に、僕はもちろんと笑いかけた。 魔女やおばけの仮装をした子どもたちは次々とオレンジ色の灯りがともる自分の家へ帰って行く。さっきまで賑わっていた街はだんだん静かになってきた。楽しい夜はこれでお終い。 彼女を家まで送る。玄関のジャックランタン、僕がかぼちゃのおばけだって言ったら彼女はどんな顔をするだろう。
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彼女はたくさんのお菓子を持って家の中に駆けていった。 そろそろ僕も帰ろう。 村を出ようとしたら、後ろから足音が聞こえた。 振り返ると彼女が『トリック・オア・トリート』と書かれた紙を見せてきた。 「え、僕のお菓子はさっきあげたので全部だよ」 と言うと、彼女は僕の頬にキスをした。 びっくりしている僕ににっこり笑いかけ、彼女は夜の道に消えていった。 驚かすのは本当は僕の方なのになぁ。僕はふふっと笑った。
- 完 -