夢の国のアリス
ね、今日はなにをしよう。
焼きたてのトースト
淹れたてのコーヒー
静かな音
昨日の続きの始まりがはじまるよ
- 1 -
窓を開ける。
冬色の空に泳ぐわたがし。
濁りのない空気をやさしく揺らす吐息。
ああ、今日も素敵な一日になりそう。
ソファのけむくじゃらも気のせいか笑ってるようにみえる。
キャロルという名の猫。
昨日いけなかったあそこ、また行こっか。
- 2 -
お気に入りのワンピース。
袖を通すと軽やかな香りが
私を包み込む。
幸福に囲まれて今日が来た。
勢いよく扉を開く。
冬の空気はほんのり冷たいけれど、高まる気持ちを整える。
ああ。あの場所が待っている。
昨日の夢にみたあそこへ。
キャロルは私の腕の中で、小さな寝息を漏らした。
さあ、出発だよ。
- 3 -
通い慣れた冬色の並木道がいつもより素敵に感じる。
歩くたびに色とりどりの落ち葉達が私の幸福を喜んでくれた。
少し冷たい空気だって今の私には心地良い。
この並木道を抜ければ、私の幸福の場所。
するりとキャロルは私の腕の中からすり抜けて、まるで案内するかのように前を優雅に歩き出した。
あぁ、もうすぐで着くわ。
- 4 -
さあっと暖かな陽光が射しこんできた。
並木道を抜けたその先は…
レンガ造りの小さなお店。
テラスの緑が目に優しく、揺れるレースのカーテンが蝶のように私の心をくすぐる。
窓ガラス越しに見える、大好きなカフェの店内は変わらず穏やかで。
ガラスのショーケースに飾られた色とりどりのケーキ達と、紅茶の香り。
宝石箱みたいな、幸せの場所。
自然と足取りが軽くなる。
ねぇ、置いてかないでよキャロル!
- 5 -
キャロルを抱き上げて、ピンクの花のリースが掛けられたドア。
そのドアを引くと、からんからんとベルの音。そうよ、この音!
「いらっしゃいませ。お久しぶりですね」
本当に。お元気でした?
「ええ。貴女様をお待ちしておりましたよ。今日はいらっしゃるんじゃないかと思いまして…」
そう!本当に勘の良い方ね!
- 6 -
迎えてくれたのはカフェの店員のあなた。
ポロシャツに黒のエプロンをかけている。
差し出されたのは木苺のタルトと、アールグレイ。
シックなコースターにのせられて、少し大人な精悍した雰囲気を作り上げてくれる。
キャロルを懐に抱き寄せながら、銀のフォークを手にとって、甘い味を頬に広げてやる。
キャロルもこの香りが気に入ったかしら?
- 7 -
人称が変わってしまったり、キャロルキャロルと言い過ぎて何がなんだか分からなくなったわ。
何と無く気づいていたの、これは夢ね。
と、ひとり合点がいったところで、せっかく楽しい夢なのだからもっといろいろ試してみたくなった。
体がふわりふわりと宙に浮かぶ。
いつの間にかお店は消えていて、猫のキャロルと空中遊泳。
そういえば、昨日は落ちそうになって目を覚ましたんだっけ。
- 8 -
ふわりふわりと風に乗って空を飛ぶ。いつの間にか落ちる恐怖は、高揚感に変わった。隣のキャロルはとっても気持ち良さそうで、わたしも嬉しくなっちゃった。
地上を離れ、遠い星の海に飛び込んで手を伸ばすの。あと少しで届きそうな、大きなお月さま。ねぇ、キャロル。あんなに大きなお月さま、どうしようか。キャロルはつまらなそうに欠伸した。
まぁいいや。まだまだ夜は明けてないもの。あと少しだけ、夢をみさせてね。
- 完 -
作品情報
夢の国のアリス
#2014
- リレー期間
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1年4ヶ月