夢の国のアリス

ね、今日はなにをしよう。 焼きたてのトースト 淹れたてのコーヒー 静かな音 昨日の続きの始まりがはじまるよ

うろこ

13年前

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窓を開ける。 冬色の空に泳ぐわたがし。 濁りのない空気をやさしく揺らす吐息。 ああ、今日も素敵な一日になりそう。 ソファのけむくじゃらも気のせいか笑ってるようにみえる。 キャロルという名の猫。 昨日いけなかったあそこ、また行こっか。

naomi

13年前

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お気に入りのワンピース。 袖を通すと軽やかな香りが 私を包み込む。 幸福に囲まれて今日が来た。 勢いよく扉を開く。 冬の空気はほんのり冷たいけれど、高まる気持ちを整える。 ああ。あの場所が待っている。 昨日の夢にみたあそこへ。 キャロルは私の腕の中で、小さな寝息を漏らした。 さあ、出発だよ。

熊岡りり

13年前

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通い慣れた冬色の並木道がいつもより素敵に感じる。 歩くたびに色とりどりの落ち葉達が私の幸福を喜んでくれた。 少し冷たい空気だって今の私には心地良い。 この並木道を抜ければ、私の幸福の場所。 するりとキャロルは私の腕の中からすり抜けて、まるで案内するかのように前を優雅に歩き出した。 あぁ、もうすぐで着くわ。

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さあっと暖かな陽光が射しこんできた。 並木道を抜けたその先は… レンガ造りの小さなお店。 テラスの緑が目に優しく、揺れるレースのカーテンが蝶のように私の心をくすぐる。 窓ガラス越しに見える、大好きなカフェの店内は変わらず穏やかで。 ガラスのショーケースに飾られた色とりどりのケーキ達と、紅茶の香り。 宝石箱みたいな、幸せの場所。 自然と足取りが軽くなる。 ねぇ、置いてかないでよキャロル!

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キャロルを抱き上げて、ピンクの花のリースが掛けられたドア。 そのドアを引くと、からんからんとベルの音。そうよ、この音! 「いらっしゃいませ。お久しぶりですね」 本当に。お元気でした? 「ええ。貴女様をお待ちしておりましたよ。今日はいらっしゃるんじゃないかと思いまして…」 そう!本当に勘の良い方ね!

Florence

12年前

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迎えてくれたのはカフェの店員のあなた。 ポロシャツに黒のエプロンをかけている。 差し出されたのは木苺のタルトと、アールグレイ。 シックなコースターにのせられて、少し大人な精悍した雰囲気を作り上げてくれる。 キャロルを懐に抱き寄せながら、銀のフォークを手にとって、甘い味を頬に広げてやる。 キャロルもこの香りが気に入ったかしら?

aoto

12年前

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人称が変わってしまったり、キャロルキャロルと言い過ぎて何がなんだか分からなくなったわ。 何と無く気づいていたの、これは夢ね。 と、ひとり合点がいったところで、せっかく楽しい夢なのだからもっといろいろ試してみたくなった。 体がふわりふわりと宙に浮かぶ。 いつの間にかお店は消えていて、猫のキャロルと空中遊泳。 そういえば、昨日は落ちそうになって目を覚ましたんだっけ。

terry

11年前

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ふわりふわりと風に乗って空を飛ぶ。いつの間にか落ちる恐怖は、高揚感に変わった。隣のキャロルはとっても気持ち良さそうで、わたしも嬉しくなっちゃった。 地上を離れ、遠い星の海に飛び込んで手を伸ばすの。あと少しで届きそうな、大きなお月さま。ねぇ、キャロル。あんなに大きなお月さま、どうしようか。キャロルはつまらなそうに欠伸した。 まぁいいや。まだまだ夜は明けてないもの。あと少しだけ、夢をみさせてね。

月野 麻

11年前

- 完 -