安らかな眠りを届ける。信頼と安心の、、、、

ここの宿屋の帳簿、セーブポイントになってるらしいぞ。 元情報屋の友人に聞いてやってきた、何の変哲もなさそうな宿屋。我々はセーブポイントを探し歩いていた。どうしても、今、セーブしておきたい。 「いらっしゃい!お泊まりでしたらそちらに記入をどうぞ」 おお。 この流れ、今度こそ当たりっぽいな! では早速……

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帳簿には、今までの宿泊者名がズラリと並んでいる。 名前を書きかけて、ふと手を止めた。 『Qtaro Kujo』 えっ⁉ ( 空条Q太郎...?) もしやここ、ヤバイ宿屋なんではないだろうか。それとも誰かの単なるイタズラか...? 本当にこれ、セーブポイントなんだろうか。 教会でお祈りが正しいんじゃないのか? ペンを手に固まった俺を不思議そうに見ている仲間に、相談することにした。

こだま

13年前

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「なぁ…ここってセーブポイントだと思うか…?」 「早く泊まって飯にしようよ~。僕はカレーが食べたいんだナ」 ダメだった。 仲間は食いしん坊キャラ設定だったし、何を聞いてもお腹すいた~等数通りの回答しか返ってこないのだ。 しかし今は厄介な技を使うボスの前。悩んでいる暇はなさそうだ。 セーブせずに臨んだ前回は簡単に死んでしまったから、今回は金の節約のためにもセーブしておきたい。 しかし妙だ。

森野

13年前

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セーブをするための場所なのだから、もっと簡素であってもいい。 セーブは保険であり、ゲーム世界の記録を残すためにある石碑のようなもの。 宿屋にずらりと並べられているのは、対ボス用の魔法道具だった。 【ダメ・絶対・混乱】 おかしな標語まで貼られている。 一時休憩用の卓球などのミニゲームも充実し、どこか緊張感がない。 それに、あの足つぼマッサージ器具の性能をみてごらんよ。

aoto

12年前

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ここで一つ重要なことに気づく。仲間が既に帳簿に名前を書き、ぐっすり寝ていた。 なんの為に俺が考えていたと思ってるんだ… その瞬間だった。仲間の手が俺の首を絞めた。 「…なんの冗談だ?」 冗談でやる力じゃない。 操られてんのか?何故?やはりヤバイ宿屋だったか? セーブポイント… もしかして セーブ出来るということはロードも出来る… 帳簿に名前を書きセーブさせ、不正にロードして操ってるのか?!

12年前

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「…くっ」 やっとの思いで仲間を突き飛ばす。ごほごほと咳をした後肩で息をする。 ゆらり、と立ち上がる仲間の気配がしたと同時にここのフロアにいる人全員の視線が俺に向けられる。 紛れもなく敵意のこもった目だが、全員目が赤くなっていた。仲間の目は灰色だ。 もしかして、こいつら全員操られてんのか? 帳簿をみるとぎっしり埋まった名前。だがなぜこのタイミングで?まるで俺が来るのを待っていたような…。

ハイリ

11年前

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「ふはは、勇者よ、よく気付いたな」 その時、宿屋内に高らかな笑い声が響いた。 カラオケコーナーの一段高い台の上から俺を見下ろしていたのは、宿屋の…親父? いや、違う!額のあの紋章は…! 「貴様、魔王か!」 「そうとも。気付くのが遅すぎたな。お前の仲間はもう我が手の内だ」 「卑怯な、宿屋を偽り罠に嵌めるとは!」 「そうではない」 魔王はやれやれと首を振る。 「ここは正真正銘、私の営む宿屋だ」

11年前

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「は?」 意味がわからない。 「魔王、寝言は寝てから言え」 「いや、私は正気だ」 「だって魔王が宿屋を営むなんておかしいだろ!一体なんの必要があってやってるんだ」 「趣味。待ってるのって暇だし」 ふざけやがって殺す。 「待て、勇者よ落ち着け。お前の言う通り魔王が宿屋を営むなんておかしい。これは我々の世界が狂ってしまったせいなのだ」 「どういうことだ?」 「つまりこのゲームはバグってるということだ」

sabo

11年前

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セーブとロードができたんだ。 、、、! そうだ! 一直線にセーブポイントへ走る。 あれさえあれば、、! 「、、ちっ、気づいたか」 その前へ仲間が襲いかかる! くそっ!すまない!PPを全て使う大技を繰り出す。 肉の焼ける匂い。矛に付く血。勇者は目を瞑った。 全力で走った。走ったはずだった。 足元にノイズが奔る。 バグがここまで回ってきたか、、、 朦朧とする意識の中で唱える。 「バルス!」

長野林檎

11年前

- 完 -