ピロポポポーン!ピロポポポーン! 通勤途中の渋谷のスクランブル交差点で信号待ちをしていたら、けたたましい音が鳴り響き、同時にスマホの画面に緊急警報速報が表示された。 !緊急警報 頭上注意! え?…ええ⁈なに⁉︎ なにーーーっ???!!!
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さらさらの前髪がオールバックになるくらい勢いよく上を向くと視線はその対象物をバッチリ捉えた。 UFO。隕石。生物。かつてないほどの思考速度であらゆる可能性を算出するも全て無意味だ。瞳を支配するアレを誰が説明できようか! まばゆい光を背景に、水中眼鏡をつけた力士が、フラフープをしながら、天から舞い降りてくる。 腰をぐりんぐりん動かしてフラフープを操り、半笑いで、ゆっくりと、私の前に降りてくるのだ。
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…………呆然として言葉が出ない。 そんな私を無視するかのように、半笑いの力士は姿に似合わず、やたらと爽やかな声で「やあ」と言った。 「こ、こんにちは……」 とりあえず、挨拶してみた。 その間も力士はぐりんぐりんとフラフープを回し続けている。器用だ。 「驚いているね。うんうん、いい反応だ。よし、これをあげよう」 後光が射したまま、力士は着けていた水中眼鏡を私に渡した。
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「こ、これは……?」 「友好の印さ。これで、君と僕らは協力し合う仲間になった。困った時にはこの水中眼鏡を身につけてみてくれ。僕達が助けに来る」 力士は小鳥も失神するレベルのウインクを放つと(驚くべきことにフラフープを回したままである)、元来たUFOへと戻ってしまった。 「……」 視線を落とす。 大きな水中眼鏡が一つある。 「……痛っ!」 頬っぺたを強く叩く。 水中眼鏡はやはり消えない。
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しばらくその水中眼鏡を眺めていた私は、徐にそれを装着してみた。 すると…。 UFOに戻って行ったはずの力士が再びフラフープを回しながら降りて来た。 「おやおや、友好の印をすぐに着けるとは思わなかったよ」 「ええ、私も」 「で?何か困っている事でもあるのかい?」 「ええ」 「何かな?」 「こんなどーでもいい変なものを貰って困ってます」 「そーかそーか、それは大変…って何ーーっ⁉︎」
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「これは、友好の印だよ?!ゆーこー!ジャパニーズ OK?」 「日本語は分かります。要りません」 「誰にでもあげる訳じゃないんだよ?言わば、限定品だよ?!」 「要りません」 「日本人は限定品に弱いんだろ?!何でだよ!」 「力士の水中眼鏡が欲しい人が居ますか?」 「え、まわしの方が良かったのかい」 「しね」 「やだな、モンゴリアンジョークだよ」 「モンゴル人っ!?」
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「モンゴル人じゃありません。僕達はモンゴーリアン星人で〜す」 「モンゴルかモンゴーリアンか知りませんけど、こんな物は要りません」 「こ・ん・な・も・の・?」 力士の形相が変わった。 私はそのただならぬ雰囲気に息をのんだ。 「友好の印をこんな物って言いましたか?」 「は、はい。言いましたが、なにか?」 「戦争をしたいのですか?」 「は?」 「地球人は、我がモンゴーリアンと戦争がしたいのですか〜?」
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「言っときますけど、僕達は強いです。本気になれば大地が震え山が火を噴き……」 ごくり。何気にやばそう。 「そして世界中がまげとまわしの世界になりま〜す!」 「なぜそこで威張るね──ん‼︎」 衝動的な私のツッコミに驚く力士。しかしサッと後ずさってフラフープを回し続ける。そんなにフラフープが好きなのか。 「だいたいねえ、まげとまわしは日本の文化なんだから」 「それは!本当ですか⁉︎」
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それから1年が経った。 あの日、日本の文化に感動したモンゴーリアン星人は日本と正式な友好協定を結び、今なおさかんに交流が行われている。 出会いの地、渋谷には水中眼鏡とフラフープの銅像が設立され、それを模したファッションが若者を中心に大流行している。 私はというと親善大使に任命され、近々建設される日本人村の視察のため現在モンゴーリアン星を訪れていた。 モンゴーリアン星よいとこ一度はおいで
- 完 -