俺達の夏にできないことなんてない

「兄貴、海連れてって」
「いいとも」

ジャバババ……。

「ほれ」
「なめてんの?」

兄貴はホースの水で作った水たまりを指差し、得意気な顔をする。

屋根のある駐車場の中とはいえ、蒸し暑く、冗談が癪に触る。

「まぁ、騙されたと思って」
「兄貴が先に入れよ」
「分かった」

兄貴は頷くと一旦家に帰り、水着に着替えて戻ってきた。

「じゃ、お先」

そしてそのまま水たまりダイブし、消えた。

ぱっちん
- 1 -

え…?マジで?
水たまりを覗いて、手を突っ込んでみたが、やはりただの水たまり。
「兄貴ー?」
……おいおい…兄貴どこ行っちゃったの?

…ぴちゃん!
飛び込んでみたが、やはり足先が濡れただけ。
兄貴は頭からダイブしてたな…て、いやいやいや、頭から?この浅い水たまりに??怖すぎる!

どうする?どうする?
水たまりの前でウロウロしていたら
…ツルッ
「あっ!」
僕は水たまりに、背中から倒れこむ──

あおい鱗
- 2 -

ザブン
深い深い青色、ブクブクと起こる沢山の泡、そして…

徐々に感じる息苦しさ。
ヤバい、窒息する!僕は慌てて水面まで泳ぐ。

ぷはぁ、と酸素を取り込む。間一髪。
それにしても、あんな方法で本当に海に行けるなんて…。信じられない。

「おーい!おせーぞ我が弟よー!」
振り向くと浜辺で兄貴が手を振りながら僕を呼んでる。

この状況が未だに飲み込めない。
兄貴って魔法使いか何かなんだろうか。

Dr.K
- 3 -

僕は浜辺まで泳ぐと、肩にいつの間にか引っ付けたヒトデと共に兄貴の横に並んだ。

「兄貴、これどういうこと?」
「男が小さいことでガタガタ言うな。夏のバカンス、楽しまないと損だぜ?」

兄貴はヒトデを手に取ると、口に当てて息を吹き込み、プウと膨らませた。

風船みたく丸まったヒトデは、兄貴の手のひらでポンポン弾む。

「海といえばビーチバレー!さぁ勝負!」
「2人でバレーとか、何言ってんの?」

いのり
- 4 -

「俺達の夏にできないことなんてない!」
兄貴が叫ぶと、ぼん、と勢いよくヒトデが空に跳ねる。慌てて後ずさる。ヒトデボールを目で追うと、強すぎる直射日光が僕の目を刺した。

「うわっ」
面食らって尻もちをついてしまった。ゆるい風が砂浜をさらって、指のあいだを過ぎていく。その白い砂をつまんで、本物だなあ、と思わず声が漏れた。

逆光に照らされた兄貴の笑い声が聞こえる。
「何やってんだ、弟。この間抜けめ」

pinoco
- 5 -

はて。ここで何やら違和感。何だろう。
とかく眩しく思考が遮られる。濡れた服が重い。あまりに太陽が強いので、海の中へ戻ろうかと思うけれど、水着がない。きょろきょろと日陰を探した。
「ええ? 影が無い!」
「夏だ、海だ、影は不似合いだ!」
兄貴は無茶苦茶な道理を吠える。誰もいない海辺で。
「裸になれよ、兄弟」
もう、どうなっても知らないからな。どうせ誰も来やしないんだ。僕は素裸になって海に飛び込んだ。

113
- 6 -

はずなのだが。はてな、またしても違和感。
シュ、シュワシュワする……。僕の表皮でつぶつぶと気泡が踊り去ってゆく。炭酸風呂に浸かっているような……ごくり。ああ、分かった。これ本物の炭酸水だ。薄っすらレモンの味がする。兄貴の好きなキリンレモンだな。

二度目の水中ではいろんなことがどうでも良くなっていたからか、普通に呼吸をしていた。どうでもいいけど、出たら体が砂糖水でベタベタするな。
「おーい弟やい」

ユリア
- 7 -

「竜宮城まで競争な」
兄貴がニヤリと笑う。なんとその足は魚のそれであった。
まあもう、いろいろあっても驚かないのだが。
スイスイ泳いでいく兄貴に引き離されるし、炭酸の泡に囲まれてしまう。
「くそっ、卑怯だぞ!」

思わず目をつむった、その一瞬。
竜宮城は現れたのだった。

「ふふん、この兄が乙姫をナンパしてやろう」
兄貴、変なフラグ立ててんじゃないだろうか……。

すくな
- 8 -

豪華絢爛な竜宮城で遊ぶ僕と兄。亀なんて助けていないのにもらった玉手箱。
これ、アレだ。これ、絶対アレだ。
不思議で刺激的な夏はあっという間に去っていく。それは、喉ごしのいいキリンレモンのように。

"まだ開けたくない"と駄々こねる僕をよそに、兄貴が玉手箱を開ける。白い煙に包まれ、夢から覚めた。

カレンダーが夏休み最後を告げている。後には宿題だけが残っていた。海へ逃げたいという僕を兄貴が励ました。

aoto'
- 完 -

novelnoveは
9人でひとつの
ストーリーを完成させる
参加型小説アプリです。