今日の俺はいつもとは違うんだぜ。髪もワックスでしっかりセットしてきたし、制服だって丁寧にネクタイを結んできた。 そして何より、今日の体育はサッカーなのだ!何よりも得意とする競技。絶対に活躍してクラスから一目置かれる存在になってやる。 登校しながら、試合後に褒められた時のために謙遜する練習をしていると、後ろから頭を叩かれた。 痛ぇーよ。何すんだ。 「おい、熱田、一人で何やってんねん」

紬歌

7年前

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この容赦ない関西弁は同じクラスの新田。みんなから「にいやん」と呼ばれている。俺はあまり仲良くはない。 「頭ワックスでバリバリのスーパーサイヤ人おるなー思ったら、一人でニヤニヤ、気色悪いわぁ」 言いながらさらにばしばし俺の頭を叩いてくる。 「セットが崩れるだろうが!!触んな!」 急いで払いのけると新田は笑いながら後ろへ下がった。 「得意なサッカーで活躍できるとええな」

miyo10

7年前

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「新田、どうしてそれを」 「あんなデカイ声出しとったら、嫌でも聞こえるちゅうねん」 カァッーと顔が熱くなっていった。ということは、俺の目論見もバレバレなわけで。新田の目線は未だに俺の髪に向けられている。 「あー、もー、見んな!意地悪なやっちゃ」 「実はな、俺もサッカー自信あるんや。せやから、宣戦布告しとうなったいうことや。今日、俺ら別個のチームになろうや、な、いいやろ?」

aoto

7年前

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正直なところ、割とどうでも良かった。故に諾とする。新田はそれで満足したらしく、口笛を吹き吹き俺を追い越して行った。気障ったらしいと言うか、芝居掛かっていると言うか。どうにもそりが合わない。 体育は二時限目。それまで絡むことも無いだろう。俺たちの席は、廊下側の最前列と窓側の最後列とで遠く離れている。 「遅いで、バリカタくん」 ところが、どう言うわけかまたも奴の方からやって来た。

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「なぁ、ただ戦うんもあれやし、賭けでもせぇへんか?」 好きにしろ、と軽くあしらうと新田はヘラヘラしながら席に帰っていった。 あんな奴はどうだっていい。俺が活躍できさえすればそれで良い。 でも、何故あいつは今日に限ってこんなに絡んで来るんだ? サッカーもたいして上手くなかったはず、なのにあの自信は一体…… そんなことを考えてる間に一時限目が終わってしまった。 「で、何賭けるんや?」

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