「世の中金だ」 傲慢な富豪はそう言った 「世の中力だ」 屈強な大男が叫んだ 「世の中愛よ」 可憐な少女が訴えた 「世の中顔だわ」 淫らな女性が皮肉った
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「多くの金さえあれば『何でも』買える」 「屈強な力さえあれば『何でも』できる」 「温かい愛さえあれば『何でも』耐えられる」 「綺麗な顔さえあれば『何でも』許される」 四人の会話を聞いた少年は、こう問うた。 「じゃあ、お金も力も、愛も顔も、全部全部持っていたらどうなるの?」
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4人はさっと黙り込んだ。 俯いて、考え込んだ。 そして出た答えは1つ。 『そりゃあもちろん 何でも買えて 何でもできて 何でも耐えられて 何でも許されるんだろう』 と。 少年はそれを聞いて言った。 「そうなのかな。 じゃあ結局あなた方が 本当に欲しいものは 何なんだい?」 4人はまた黙り込んだ。
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「多くの金さえあれば、屈強な力に打ち勝てる」 富豪がひとりごちた。 「力さえあれば、金が手に入ることもあるだろ?」 大男が反論した。 「愛されていれば、綺麗な心と身体になれるはずよ!」 少女は叫んだ。 「綺麗な顔さえあれば、愛してもらえるのにね」 女は泣いた。 「へえ…まだよく分からないな… 金があれば力が、力があれは金が。愛があれば美しさが、美しさがあれば、愛が…か。」
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「あなたは力が欲しいの?」 少年の質問に富豪が答える。 「力より金さ」 「あなたは金が欲しいの?」 少年の質問に大男が答える。 「金より力だ」 「君は綺麗な容姿が欲しいの?」 少年の質問に少女が答える。 「いくら綺麗でも愛されなければ無意味だわ」 「あなたも愛されたいの?」 少年の質問に女は黙り込む。 やがて女はこう答えた。 「私は、自分を愛したい」
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「へーじゃあ、僕は全部持ってるから、僕の優勝だね」 少年は、1+1の解が2だと言うように自信を持って言った。 4人の目が変わった。 本当に少年は全部持っているのではないか… そんな気がしてきたのだ。 結論から言う。 少年は「自信」を持っていた。 少年の発言の後、最初に口を開いたのは富豪だった。 「全財産はいくらだ?」 「財産をいくらで表現なんて貧しい考えしてるなー。」 少年は鼻で笑った。
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「僕は大きな夢を持ってるもの!」 「じゃあお前は誰に勝てるんだ?」 「誰にだなんてとんでもないよ。」 少年は勇む。 「誰も僕には勝てないよ、だって僕には勇気があるもの!」 「あなたは皆に愛されてる?」 「皆だなんてとんでもないよ。」 少年は語る。 「世界中の人どころか、神様も僕を愛してるよ!」 「私は、私を愛せる?」 少年は諭す。 「とんでもないよ。」 「君は世界中の誰よりも自分が好きさ!」
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富豪は不満を顔に浮かべ、 大男は呆れかえり、 少女は疑いの眼を向け、 女は静かに瞼を伏せた。 「みんな嘘だと思うんでしょ?所詮子供の戯言だっ」 「……」 全てを見透かすような少年の瞳に四人は誰一人として何も言わなかった。 「世の中が金だったなら1番なのに、世の中が力であるならばだれにも負けないのに、世の中が愛であるなら満たされているのに、世の中見た目であるなら諦められるのに、でしょ?」
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「僕は何もいらないんだ、だから金も、力も、愛も、顔も、僕から見れば同じに見えるんだ。僕は何か「たった一つ」でも手に入ればいいよ。金でも、力でも、愛でも、顔でも、何でもいい。それでいいんじゃないかな、お兄さん、お姉さん達はそう思わないの?」 大人達はただただ少年の純粋な心に感服していた。 彼らは「たった一つ」 そう思った。
- 完 -