真っ暗闇の夜中。 2人の盗賊がコソコソとある貴族の屋敷に忍んだ。
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ずんぐりむっくりの方は錠外しの達人。 のっぽの方は忍び足の達人。 2人はいっつも失敗ばかり。 上手く解錠出来てものっぽの長身で見つかってしまうし、屋敷に入ってもずんぐりむっくりの大きな足音で気づかれてしまう。 腰に提げたアラビアンナイフが新月の光に煌めく今夜。 何だか今日は上手くいきそうな予感…?
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「今日は作戦を変えてみねぇか?」 「どういうことだい?」 ずんぐりむっくりは得意げに自らが考えた作戦を語り始めた。 「見ての通り、所々ヒビやら亀裂やら走って一見ボロいが、それは俺たちのような盗賊を欺いているに違いねぇ。うかつに近づくと警報がなっちまうかもしれねぇ」 するとずんぐりむっくりは長い長いロープを懐から取り出した。 「これで最上階へ登ろう。外から行きゃあ音が鳴っても気にしないだろ」
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「とは言ってもよ、こんな細いロープじゃ、お前を支えきれずに千切れちまうよ」 言われたずんぐりむっくりはムッとした様子で、手にしたロープをのっぽに突き出した。 「じゃあ、お前が行けよな。丈夫な梯子でも探してきてくれよ」 なんとかロープを最上階のバルコニーに引っ掛けると、のっぽが登っていく。 しかし、バルコニーの戸に手をかけたのっぽは、すぐに失敗に気が付いた。 「ちくしょう!鍵がかかってやがる!」
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のっぽは独りすごすご降りてきた。 「やっぱりお前がいなくっちゃあ」 「そうともそうとも」 ずんぐりむっくりが胸を張ると、ふくれた腹がのっぽをはねた。 ずんぐりむっくりは梯子に足をかける。びしみしっと響く音に、ぎくり。 のっぽは得意げに背を向ける。 「乗りな」 おんぶをしても、さすがはのっぽの忍び足。 「やっぱりお前がいなくっちゃあ」 「そうともそうとも」 バルコニーで二人は鍵を見て、にやり。
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ここはさすがの錠外しの達人。ずんぐりむっくりはあっという間に
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と思ったら、いきなり向こうからガチャリと音がして戸が開いた。 これにはずんぐりむっくりものっぽも、驚き抱き合って跳ね飛んだ。 現れたのは小さな女の子。 長い金髪はクルクル踊っているかのように柔らかだ。 どうやらここの貴族の娘らしい。 「おじちゃんたち、だぁれ?」 眠そうな目をこすって尋ねる女の子に、ずんぐりむっくりものっぽもえーと、と頭をかいた。 ああ、今回も失敗か。
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しかし、何だか今日はいつもと違ったことが起こる予感。 だって今日は新月で、お月様は見ていない。だからといって腰のナイフがきらめくこともなさそうだ。 寝覚めぱっちりになった女の子は、おしゃまな口調で言う。 「おじちゃんたち、ドロボウさんね!」 なんだか、とっても嬉しそう。 期待のこもった眼差しに歓迎されると、2人も悪い気はしなくなって、いつものように返事した。 「そうともそうとも」
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「じゃあ鍵をなくした私の宝箱、おじちゃんたちなら開けられるわね!」 ずんぐりむっくりがたちまち錠を外してみせる。 箱の中身は小さな心臓。 「次はこれを隣町の男の子のところに。病気で新しい心臓を探してる。誰にも気づかれないようこっそりね!」 のっぽにはわけない仕事。 だけど。 「「それじゃ、あんたはどうなる!?」」 女の子は笑って答えたさ。 「これで見事に私、ドロボウさんに盗まれたわ!」
- 完 -