悪女に手向ける一輪の薔薇

あなたの香りがまだ部屋に残っています。 愛し合えは愛し合うほど悲しくなってゆく2人、 永遠に結ばれる事のないカルマ あなたの優しさが手に入るのなら わたしは悪魔と契約しても構わない 死後の世界で離れ離れになるけれど 今世で手に入れたいのはあなただけ そのたくましい胸もやさしく髪を触る指も 誰にも渡したくない。 私だけを見てもらえるには あの女を殺さねばならない

バーバラ

13年前

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私があの女に負けた理由が解らない。 あんな醜い女を選んだあなたも憎い、けれど、私の彼を奪ったあの女が許せない。 だから、殺さねばならない。 最も屈辱的な方法で。 簡単になんか、逝かせてやるものか。 苦しんで、のたうって、醜く歪みきった状態で・・・やっと逝かせてやる。 そう決意した鏡に写った私の顔は、ゾッとする程妖艶に見えた。

snow

13年前

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悪魔との契約 それはあの女を殺すことで、一生彼と愛し合うことが赦されるというもの。 死んだ女は、悪魔が存在自体を消してくれるため、あの女がこの世に生存していたことを知る者は私、ただ一人となる。 女を消した罪と共に、そして彼と共に・・・私はこの一生涯を過ごすことになる。 一生、それは私が死ぬまでということ。 死後の世界で、私が彼と共にいることは赦されない。 しかし、私はそれでも十分だった。

aegis

13年前

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あの女は消えた。 私の他の誰にも知られることなく、人々の記憶から抹殺されて。 明日はやってくる。 そんな女のことなど気にしない風に。 世界は変わりなく回り続けるのだ。 勿論、彼の記憶の中からも消されていた。 彼は時々、頭を抱えるように、あの女と過ごした時間の穴を思い出そうとするが、失敗する。 なんだか、最近、ずいぶんと長い時間を失ったような気がするんだ。彼は言う。 いい気味だった。

aoto

13年前

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時折、遠くを見つめるような彼を見ることもあった。だけど2人でいられる時間は何物にも代えられなかった。死ぬまで一緒。 彼が髪を撫でてくれる度、逞しい胸に寄り添う度、じわりと涙が出そうだった。 幸せだった。彼は私だけのもの。 だけど、あの女の一周忌が近づく頃に、彼の声が出なくなった。 過度のストレスが彼の声を奪った。

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彼は声を取り戻すためカウンセリングに通い始めた。 悪魔との契約は成功したはず、現に彼女は消し去った。私達の愛は永遠のはず、私だけを見ていて、離さないでいて。どうして彼が私を見る目は空虚なモノなの、存在していないモノを見るような目で見ないで ある日、彼は声を私に向け発した。 「かなえ!」 この世界から消えさった彼女の名だった。 どうしてあの女の名を呼ぶの?なぜ私に向ける目は輝いているの?

13年前

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「もうすぐかなえの誕生日だな! プレゼント何がいい? この前聞いた時は、『俺さえいてくれればそれでいい』って言ってくれたよな? でもやっぱり俺、何か形に残るような物を、かなえに残したいんだよ。なぁ、かなえは、何が欲しい?」 かなえ、かなえ。 あの女の名を何度も私に向かって。それも笑顔で。 「かなえ? ……何で泣いてるんだ?」 ーーどうやら、彼の記憶から消えたのは私の方だったらしい。

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あぁ、あぁ、何て事だろう。 私が消えて、あの女が残り、あの女は消えたはずなのに、あの女が私に成り代わり、私はあの女になり…? ひたり、と震える両手で、自分の顔を覆う。 そんな馬鹿げた事、起きる筈はない。それなのに、あぁ、あぁ! 私の鼻はこんなに低くなんてない、私の目はこんなに小さくなんてない、私の唇はこんなに薄くなんてない、私の顔はこんなに醜くなんてない!! 鏡に映るのは、あの女の顔だった。

かえで

13年前

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悪魔は私を裏切った‼あの女をこの世から消し去りたい‼もはや望みはその一点。 私は刃物を手に取り、奴を切り裂いてやった‼ 遠くであの女の悲鳴がする。 「ハハッ‼ ザマアミロ‼‼」 ゴトリと落ちる〝かなえ〝の首。 「俺もかなえに捨てられたら『悪魔と契約』とか言っちゃうのかなwww」 「やめてよ〜。」 二人の影にどす黒く染まる女の屍。 妖艶なまでに美しく。 薔薇色に。

13年前

- 完 -