私はオパール。宝石だ。 私は色々な色に光る宝石。 私達、宝石からは自分は人間のような 姿で見える。私はというと、金髪に 薄い緑色の瞳の少女の姿をしていて、 肌が白く、頬は桃色だ。 私の親友は、サファイア。 美しい黒髪と深い海のような 青い瞳を持っている。 彼女は、聡明ですごく頭が良い。 私の一つ上の姉的存在のアメジスト。 彼女は少しカールした茶色の髪とラベンダー色の瞳を持っている。
- 1 -
私はよく絵を描く。 モデルはもちろんサファイアとアメジスト。 サファイアを描く時は、私の感受性が高まり、いつも以上の筆運びでわくわくする。 アメジストを描く時は、集中力が高まり一気に描けるし、それに、感が冴えて来て思わぬ出来栄えの作品に仕上る。 そんな私を二人は、 「オパールといると何だかいつも楽しいわ」と言って愛してくれている。 もちろん私だって二人を愛してる。 宝石箱の中は毎日楽しい。
- 2 -
宝石箱の蓋が開く。今日はアメジストのお出かけだ。 サファイアと二人、今日アメジストはどこへ行くのだろうと一日中うわさ話をして過ごす。 夕方、頬を火照らせた彼女が戻った。 かの人の胸の上に着けられ、広い世界を垣間見た彼女の興奮は、少女のよう。 ラベンダーの瞳は一層きらきらしていた。 明日はサファイアの出番だという。 青い瞳を輝かせて、サファイアはなかなか寝付けないよう。 私の番はいつだろう?
- 3 -
サファイアはあまり寝られなかったことを利用していつもよりきっちりとその綺麗な黒髪を纏めていた。とても凛々しく見えるから、サファイアの髪飾りを付けたかの人の髪もいっそう輝くに違いない。 サファイアが出かけている途中アメジストが昨日の話をしてくれた。殿方の話をしてくれたり、アメジストはいろんなことを私に教えてくれる。 帰ってきたサファイアは満足気味。寝不足が祟ったのか直ぐに眠ってしまった。
- 4 -
「明日は誰が行くのでしょう?」 「尋ねる前にサファイアは眠ってしまったからね」 アメジストは明日こそあなたの番だわ、などと声をかけ、私の髪を梳いてくれた。 白濁色の固い櫛はアメジストのきめ細やかな指先によって、水の波紋のように私の髪を流れた。 「明日はアメジストかもしれない。サファイアということもあり得るわ。だって、今日のサファイアはとても綺麗だったから」 私も落ち着いて眠れることができなかった。
- 5 -
眩い夕日が差し込んだ。 「今日はオパールとサファイアにするわ」 かの人の手が私とサファイアを優しく包み込み、私は かの人の両耳を明るく照らす。 サファイアはドレスアップした かの人の髪を更に引き立たせる。 今日はディナーとパーティーのお誘いで、かの人が想いを寄せるあの殿方様とお会いになるみたい。 胸を踊らせ、アメジストに行ってきますと手を振ると、アメジストも笑顔で見送ってくれた。
- 6 -
パーティーは夢のようだった。 かの人は殿方と手を取り合い、愛の囁きを交わす。 それを引き立てるのは、耳元に光る私。こんなに胸躍る事はないわ。 シャンデリアが優しくきらめき人が行き交う夜。色鮮やかな一夜の逢瀬を、宝石箱に帰ったら、きっと絵に描こうと思った。 けれど、久しぶりの外だったからかしら。 疲れ果てた私は、まだ役目を終えていないうちに眠ってしまった。 冷たい道端に落とされたのも知らずに。
- 7 -
はっと目が覚めた。ここはどこ?美しく楽しい宝石箱の中でもなく、かの人の両耳でもない。黒々強いコンクリート、ギラギラと輝く車のライト。サファイアもかの人もいない。ここは…道端だ。捨てられた?でもかの人はそんな事をする人じゃない。もしかして落ちたの? そんな事を考えているうちに誰かにヒョイっとつまみ上げられた。それは男だった。かの人の殿方とは大違い。ニヤニヤしながらこっちを見ている。「これは売れる」
- 8 -
「離して、汚らわしい!」 悪寒が走る。けれどこの声は人間には聞こえない。 宝石箱の中で、ただ選ばれるのを待つだけに見えて?けれど宝石だって、誰に触れられ誰の身を飾るのか、選ぶものなのよ。 私は渾身の力を振り絞る。もっと沢山美しい絵を描きたかった…そう悔いながら、自ら体を粉々に砕く。 突然眼前の宝石が割れ、男は驚き手を離す。宙を舞うオパールの欠片は、最期に綺麗な幻想を描き、風に散っていった。
- 完 -