一番おいしいごはんの食べ方
目の前には炊き上がったばかりの白米と
つやつやに輝く美しい形の卵が一つ。
ごくり…
- 1 -
白米の上に卵を割り落とし、醤油をさっとかけて、一気にかき混ぜた。
なんとも言い表し難く、食欲をそそられる。
行儀など無視してがつがつと口に詰め込んだ。
- 2 -
お腹が空いていた反動か。
それともこのツヤや彩りのせいか、しなやかな手首の運動で、箸が動き、口の
中に運ばれていく。
あゝ、これぞ至福。
あゝ、これぞ至高。
今、この瞬間の幸福度はマックスに他ならない。
確信する。なぜならこの単純運動が止まらないからだ。
「あ、いけね…茶碗が空になっちまった‼︎」
こんな不幸は良くない。
席を立ち、炊飯器の前まで移動した。
- 3 -
炊飯器にはまだゆうに3膳分は輝く白米が入っている。
しかしここで重大な問題が一つ。
卵が無いのだ。
冷蔵庫を覗くとそこには・・・
・マヨネーズ
・わさび
・醤油
が入っていた。
冷蔵庫の上にツナ缶とかつお節のパック。
この中に先程の至福を再現、或いはそれを上回るものは存在するのか。
さて、どうする。
- 4 -
食うしかないだろ!
ツナ缶を開け、細かくほぐす。マヨネーズを多めに。ワサビを少々。
こりゃ美味いに決まってる。
隠し味程度に醤油を落として混ぜる。
かつお節は……今はいいか。
熱々のご飯をよそい、ツナをのせる。
いただきます!
あゝ、これぞ至福。
あゝ、これぞ至高。
あゝ、これぞ至極。
卵とどっちが美味いかなんてどうでもいい。
比べるべきにあらず。
あれはあれ。これはこれ。
ふぃ〜うめ〜
- 5 -
また茶碗が空になったが、腹八分目にも達していない。しかし、炊飯器には2膳分の白米が残っている。
「あ、いけね…ペース配分を間違えちまった!」
うかつ。あまりの旨さに、1膳でツナ缶を食い尽くしてしまった。
かつお節の出番か。しかし、醤油を垂らすだけでは、先の2膳分の感動は得られまい。
さて、どうする。
- 6 -
かつお節にマヨネーズ、それに醤油を垂らしても、意外といける。
しかしだ、それではさっきのツナと殆ど同じ。満足度では、ツナに軍配が上がるかもしれない。
いまはもはや空腹では無い。
もう一工夫、何かが欲しい。
そうだ、茶漬けはどうだろう。
熱々をさらさらと掻き込むのは、食い方に変化も出て、うまそうだ。
かつお節と、醤油とわさびを用意する。
それから…忘れていたが、確か戸棚の奥にアレがあったな。
- 7 -
「おー、あったあった。」
戸棚の奥で見つけたのは、いつだったか母が送ってきたものだった。
「食いもんだよな」
一言確認するも、誰も答えない…ま、当然だな。
一人暮らしだからな。
「おー、いー感じだ」
袋を開けたところ、なんとも言えない香りが漂ってくる…
食欲をそそる香りだ…
そもそもなんだこれは…
- 8 -
そうだ、思い出したぞ。
母お手製の佃煮だ。これをそのまま白米にのせて1膳。かつお節、わさびと共にお茶漬けでもう1膳。絶妙な塩気と甘みは、どこにも売っていない味。
母さん、わざわざ俺のために作ってくれたんだな。
何度もおかわりする俺に、母さんはいつもにこにこしながらご飯をよそってくれたっけ。
さて、炊飯器は空になった。
もう一度白米を炊こう。
そしてそれを待つ間、久しぶりに母さんに電話をかけよう。
- 完 -
作品情報
一番おいしいごはんの食べ方
#9322
- リレー期間
-
14日