意志

一流大学に推薦で入学出来るようなバカと、定期テストなんかで学年最下位をとる天才。一見矛盾している様だが、確実に存在している。

K5.

12年前

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その男、米澤は本人曰く学年最下位。しかし一目置かれていた。 異才を放っていた。 現国の時間だった。 「メロスは走ったのでしょうか」 おもむろに米澤は手を挙げた。 「10里に約10時間とは本当に走ったのでしょうか。その一方で太陽が沈む10倍で走ったとあり時速にして100000000km/時。メロスが蹴り飛ばした犬は木っ端微塵です。いや、犬はいいのです。メロスは基本歩き瞬間的に走ったと思われます」

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クラスメイトたちのあいだには一瞬またか、という空気が流れたが、それは悪い空気ではない。 今回のは、いつもより面白い気がするし、なんたって授業が止まるほど皆が望むことはない。それに先生が困った顔をするのも面白い。 「つまらんこと言ってないで、メロスはなぜ走るのをやめなかったのかを考えろ」 現国メガネが言う。いらいらしている。 するとすかさず米澤は、

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「主人公の気持ち何て作者と主人公にしかわからないものです。もしかしたら、友人のために走っているのは建前だけで、友人を見捨てた自分が後々非難されることを無意識に考えていたのかもしれません。って僕は今違うことを聞いたのですが?」 「そういうことを聞いているのではない。模範回答というものがあるだろう」 「国語の答えは正解というものがありません。僕がさっき言ったのも間違っているとは言い切れません」

yuta

12年前

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米澤の意見は、言ってしまえば屁理屈だ。だけど学生である僕たちにとってはこんな風に物に反抗してみたい気持ちがいくらかはあるし、あの厳しいメガネが狼狽えているのも見ていて気持ちが良い。教室じゅうが静かに米澤を応援し始めた時だ。 「先生」 声のする方をみんなが一斉に振り返る。 「…伊東、なんだ」 天井にまっすぐ挙げた手、さも賢そうにメガネを見つめる目。 「はい先生、僕は米澤くんの言うことに反対します。」

nono

11年前

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「国語に正解はない?それは違います」 その発言に、米澤は眉をぴくりと動かした。 「確かに理系科目比べれば、正答が分かりにくいかもしれない。だけど、国語は至る所に心情を匂わせる表現がある。それらを総合して、自らの感覚と世間の常識に従えば正答になる…米澤くんが模範解答を否定するなら、強調性のない非常識な人間、ということになると思うのですが」 伊東は眼鏡の位置を直し、挑むように米澤を一瞥した。

月野 麻

11年前

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僕は今にも手を挙げて討論に加わりたいのを必死にこらえる。 僕みたいな目立たない才能のないキャラはでしゃばっては痛い目をみるだけだ。 先生は生徒を牽制しようと口を開こうとしたが、それより早く米澤が手を挙げる。 「今は言論の自由が認められているし、僕は自分の疑問と意見を言ったまでで、反対や否定がしたいわけじゃないです」 反対意見でないというものに反対ができないのだろう。 伊東はきりきりといきりたった。

イト

11年前

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「それに国語には模範解答はあるけど、それは模範解答なだけであって正答ではないんじゃないかな?正答は作者だけの心にあるもので、模範解答なんてテストで点をとらせるための後付けでしかない。」 米澤もやめておけばいいのに、いきりたつ伊藤にさらに追い打ちをかけた。 もはや先生の存在などこの教室内では完全に忘れ去られている。

焼き鳥

11年前

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うっとうしい 学生生活なんてただ教室にいて 決まりごとをしていればいいのに。 他にみんな楽しみはないのだろうか もっと自由に生きればいいのに きっとみんな存在価値をこんな教室でさえ 探しているんだろうな まったく自己主張の激しい奴らだ とある日本一を経験した自分はそう思った なにか成し遂げてから物事いえよ 全員、他にもやることはたくさんあるはずだ

noname

11年前

- 完 -