米作りの遊女

むかしむかし、あるところに。 おばあさんと、それはそれはきれいなむすめが住んでおった。 ふたりはたいそう仲よくくらしておったそうだ。 ところがある冬の日。 ためておいた米が、盗っ人にぬすまれてしまったそうな。 ふたりは困った。 そこでおばあさんはこう言った。 「家にあるものを、売るしかないのお」 しかしむすめはそれに反対した。 「母さん、やめとくれ。そんなことするくらいなら、あたいが……」

ルーク

13年前

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「どうするんだえ。おまえ」 「あたいだってもう子供じゃないのよ。はたらきにいくわ」 と、むすめは答えたそうな。 「もうそんなこと二度と言わないでおくれ」 ここはこれでおさまったが、夜になっておばあさんが眠ると、むすめはこっそりと家を出てしまった。 こうしてむすめが仕事を探して、夜の町を歩いていると、にこやかなやさ男が寄ってきて、こう言ったのだ。 「おじょうさん。花売りの仕事をやらないかね」

saøto

13年前

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花を売るだけで、おばあさんは冬を越すのに困らない金を手に入れることができる。 あんまりやさ男が熱心に言うものだから、むすめはやさ男をすっかり信じ込んでしまった。そうしてむすめはやさ男についていったんだと。 ついた所には、むすめと同じ頃の女がたくさんいた。花など少しもありはしない。 気づいたときには遅かった。むすめは、花の街ではたらくことになってしまった。 「おい、新入り」 女たちがむすめを呼ぶ。

lalalacco

12年前

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「おい、新入り。あんた幾つだい」 「…17です」 むすめが答えると、その女は笑った。 「その年で新入りとはね、お先真っ暗だ」 「どういう意味…ですか? 」 「あんた、ここは遊郭だよ。あたしら借金の肩代わりさ。ここから出るには、借りを早く返すしかないだろ」 「……」 「その為にゃ、売れっ子になるしかない。だからみんな小さい頃から芸ごとや、立ち振る舞いを習ってるのさ。あんた何が出来んの? 」

Salamanca

12年前

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できることといえば…… 「米を作ることぐらいしか」 「ガッハッハ」 女たちは一斉に笑い出した。 「あんたそれじゃあ一生ここで過ごすことになるぞ」 「けど、米を作るのは人一倍うまいです」 「米作りで人気がでるっていうなら、みんなせっせと米を作ってるはずさ」 しかし、むすめの作る米は大きく、そしてこの世で1番美味い米になるのだった。 だからむすめはそれを金にかえようと思った。だがむすめは、きれい…

mdyu

12年前

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な美貌を持ち合わせていたため娘を馬鹿にした女たちをしのぐ程、客の人気の的になった。 その頃の娘は、借金を返済 することを目標に、毎日精を出して働いた。しかし、花の街は、そう甘くなかった。花の街の女たちが、悪質な嫌がらせを娘にし出しだした。

noname

11年前

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すれ違えば着物の裾を踏みつけられ、危うく転びかけた。愛用している化粧道具がないと思えば、遊郭の裏に捨てられていたり。 そりゃもう散々な悪戯だったと。けれど彼女は決して折れず。馬鹿馬鹿しいと黙殺した。 「母さんと父さんに、もとの暮らしをさせてあげたい」 ただ家族との幸せを取り戻すために、彼女は働き続けた。 花売りの仕事を始めてから1年が過ぎた。季節は巡り、冬の初め。見たこともない客が来た。

nono

11年前

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「はじめまして、とでも言うべきか。」 そう呟いたその男は、背も高く、まるで異国から来たかのような顔立ちの男だった。 その男のまわりがまるでキラキラと輝いているようにも見えた。 今まで何人もの男を相手にしてきた遊女達でさえ、見たことのない男に、皆釘付けになっていた。 そんな男が、自分の目の前で微笑んでいた。 娘は、男をじっと見つめることしかできなかった。 「お前… 俺のものになってはくれぬか」

te.ss

11年前

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「あ、あたいは米作りしかできんから…」 すると男は、色黒く固い娘の手を見つめた。 「…素敵な手だ。さぞかし美味い米が作れるのだろう」 「え?」 「私は、この国を皆が平等に暮らせる世の中にしたい。だから、お前には美味い米を作って私を支えて欲しい」 男はそう言って頭を下げた。 娘は男の熱意に打たれ、静かにうなずいた。 ー時は幕末。 そして、彼女の作った米は新時代への幕開けの支えとなっていく。ー

hyper

11年前

- 完 -