米作りの遊女
むかしむかし、あるところに。
おばあさんと、それはそれはきれいなむすめが住んでおった。
ふたりはたいそう仲よくくらしておったそうだ。
ところがある冬の日。
ためておいた米が、盗っ人にぬすまれてしまったそうな。
ふたりは困った。
そこでおばあさんはこう言った。
「家にあるものを、売るしかないのお」
しかしむすめはそれに反対した。
「母さん、やめとくれ。そんなことするくらいなら、あたいが……」
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「どうするんだえ。おまえ」
「あたいだってもう子供じゃないのよ。はたらきにいくわ」
と、むすめは答えたそうな。
「もうそんなこと二度と言わないでおくれ」
ここはこれでおさまったが、夜になっておばあさんが眠ると、むすめはこっそりと家を出てしまった。
こうしてむすめが仕事を探して、夜の町を歩いていると、にこやかなやさ男が寄ってきて、こう言ったのだ。
「おじょうさん。花売りの仕事をやらないかね」
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花を売るだけで、おばあさんは冬を越すのに困らない金を手に入れることができる。
あんまりやさ男が熱心に言うものだから、むすめはやさ男をすっかり信じ込んでしまった。そうしてむすめはやさ男についていったんだと。
ついた所には、むすめと同じ頃の女がたくさんいた。花など少しもありはしない。
気づいたときには遅かった。むすめは、花の街ではたらくことになってしまった。
「おい、新入り」
女たちがむすめを呼ぶ。
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「おい、新入り。あんた幾つだい」
「…17です」
むすめが答えると、その女は笑った。
「その年で新入りとはね、お先真っ暗だ」
「どういう意味…ですか? 」
「あんた、ここは遊郭だよ。あたしら借金の肩代わりさ。ここから出るには、借りを早く返すしかないだろ」
「……」
「その為にゃ、売れっ子になるしかない。だからみんな小さい頃から芸ごとや、立ち振る舞いを習ってるのさ。あんた何が出来んの? 」
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できることといえば……
「米を作ることぐらいしか」
「ガッハッハ」
女たちは一斉に笑い出した。
「あんたそれじゃあ一生ここで過ごすことになるぞ」
「けど、米を作るのは人一倍うまいです」
「米作りで人気がでるっていうなら、みんなせっせと米を作ってるはずさ」
しかし、むすめの作る米は大きく、そしてこの世で1番美味い米になるのだった。
だからむすめはそれを金にかえようと思った。だがむすめは、きれい…
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な美貌を持ち合わせていたため娘を馬鹿にした女たちをしのぐ程、客の人気の的になった。
その頃の娘は、借金を返済
することを目標に、毎日精を出して働いた。しかし、花の街は、そう甘くなかった。花の街の女たちが、悪質な嫌がらせを娘にし出しだした。
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すれ違えば着物の裾を踏みつけられ、危うく転びかけた。愛用している化粧道具がないと思えば、遊郭の裏に捨てられていたり。
そりゃもう散々な悪戯だったと。けれど彼女は決して折れず。馬鹿馬鹿しいと黙殺した。
「母さんと父さんに、もとの暮らしをさせてあげたい」
ただ家族との幸せを取り戻すために、彼女は働き続けた。
花売りの仕事を始めてから1年が過ぎた。季節は巡り、冬の初め。見たこともない客が来た。
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「はじめまして、とでも言うべきか。」
そう呟いたその男は、背も高く、まるで異国から来たかのような顔立ちの男だった。
その男のまわりがまるでキラキラと輝いているようにも見えた。
今まで何人もの男を相手にしてきた遊女達でさえ、見たことのない男に、皆釘付けになっていた。
そんな男が、自分の目の前で微笑んでいた。
娘は、男をじっと見つめることしかできなかった。
「お前…
俺のものになってはくれぬか」
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「あ、あたいは米作りしかできんから…」
すると男は、色黒く固い娘の手を見つめた。
「…素敵な手だ。さぞかし美味い米が作れるのだろう」
「え?」
「私は、この国を皆が平等に暮らせる世の中にしたい。だから、お前には美味い米を作って私を支えて欲しい」
男はそう言って頭を下げた。
娘は男の熱意に打たれ、静かにうなずいた。
ー時は幕末。
そして、彼女の作った米は新時代への幕開けの支えとなっていく。ー
- 完 -
作品情報
米作りの遊女
#1756
- リレー期間
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1年4ヶ月