ーー 殺さなければならない。 私は殺さなければならない。殺さなければならない。殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺す殺す殺す殺す殺す殺してそしてーー。 ー九日前ー 「ただいまーっ!」 「ん、おかえり」 父さんがいつものようにテレビを見ながら私を迎えてくれた。 「ごはん、あるよー」 台所を指差す父。 大好きな麻婆茄子がそこにはあった。 えへへ、今日も私、幸せ者だぁ!
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ーー 殺すんだ。 殺さなければならない。 殺さなければいけないんだ。 殺さなければ私は終われない。 ー八日前ー 麻婆茄子って最高よね。 私、これ一品だけでこの先の人生、生きていける自信があるわ。明日も麻婆茄子で行くわよ。 私は今日も大好きな麻婆茄子をほおばりながら幸せにつつまれていた。 明日もきっと幸せよねー。
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ーー殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す絶対に、ころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころす… ー七日前ー 今日も気分は最高! 朝ごはんは昨日余った麻婆茄子! けどなんでだろう、麻婆茄子を覆ってたラップに赤い絵の具みたいなものがついてる… そういえばお父さんはどこだろう。 会社遅れちゃうじゃん。寝坊かな?
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ーー ん。 あれ? ころすって、なんだ? ー六日前ー 麻婆茄子がない。いつもお父さんが作り置きしといてくれてるのに。困ったなぁ。 仕方がないので近くのスーパーで買うことにした。 あった。最後の1パック。親切なおばさんが譲ってくれたの。嬉しい、幸せ。助け合いの心って大切よね。 あれ。こんなとこにまた赤い絵の具がついている。この白いブラウス気に入ってたのに。あとで漂白しなくちゃ。
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赤‥‥ 最近よく目にする色 何か忘れてるような ー五日目ー お気に入りのブラウスに赤い絵の具を付いていたのを思い出した 洗わなきゃ ドラム式洗濯機に入れて洗い出した 何故かグルグル回る洗濯機を見てしまう あっ、麻婆茄子が食べたい どうしても今すぐ食べたくなった 取り敢えず冷蔵庫を見に行こう‥‥
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オトウサン?? そんな人居たっけ? 赤い絵の具が広がっているのはなぜ? ー四日前ー 冷蔵庫の中に麻婆茄子の材料がたくさんあった。 いつのまにこんなにあったんだろ? まぁ、いっか 大好きな麻婆茄子をたくさん食べれるんだもの。幸せなことじゃない。 お父さんどこ行ってるんだろ… ……オトウサン? ダレ?? 思い出せないなら大したことじゃないわよね。 明日は残った麻婆茄子食べよう。
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赤い、紅い、朱い、アカイ。 死? ちがう。 ただあかい。 ー三日前ー 昨日から残っていた麻婆茄子はちょっと味がおちていた。 しょうがないわね。材料買い直そう。 ちょっとめんどくさいけど、大好きな麻婆茄子の為なら買い物だって幸せだわ。 思わずスキップしちゃう。 やっぱりちょっと重くなっちゃった。 袋にはまたあかい絵の具。 やあねぇ。折角の私の麻婆茄子の材料が…
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スキップ スキップ ぴちゃぴちゃぴちゃ 赤い絵の具の真ん中で スキップ スキップ ぴちゃぴちゃぴちゃ 絵の具は真っ赤な御池になって 私は赤の女王様 誰の首を切り落とそう 掌も唇も涙も みんな真っ赤に染まってしまえ ー 二日前 ー 麻婆茄子の材料に赤い絵の具が着いちゃってる、きっと洗えば大丈夫。 あれ?麻婆茄子の作り方が思い出せない。 まな板を包丁でカツカツと叩いてみた…カツカツ…
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「作り方を思い出したわ!」 次の瞬間、手にした包丁を自分の顔面に強く打ち付けた。 おびただしい量の赤。 まさに血の海だった。 と、廃校した料理教室の先生が教えてくれたのも3年前。大好物の麻婆茄子はそれ以来一口も口にはしていない。
- 完 -