手品師 ジョニー黒田(51)の苦悩

私は手品師の、芸名「ジョニー黒田」(51)。 「おおお〜〜〜っ‼︎」 今日も小さな健康ランドで一人、手品を披露している。 最近流行りの若者に比べると大した事はやっていないが、 「おじちゃん、すご〜い!」 私はこの雰囲気だけでも十分満足している。 だが…実は、私には他の誰にも秘密にしている事がある。 それは… 実は私は超能力者で、やっている手品が全て超能力でやっているという事だ。

hyper

12年前

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「タネも仕掛けもございません」 これが手品師の常套句だ。 しかしそれはあくまでステージ上の台詞であって、実際はいかなる手品にもタネや仕掛けが存在せねばならない。 これは手品師の鉄の掟だ。 私の手品には、タネも仕掛けも存在しない。客に何一つ嘘をつかない代わりに、手品師として最大のタブーを犯していることになる。 よって、派手な「手品」を避けているのは、タネを追究されるとマズイからでもあるのだ。

12年前

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そんな私にピンチがやってきた。 「なんですって?手品教室?」 健康ランドの館長がある日そんな話しを持ちかけてきた。 「お客様の声アンケートで多いんだよ〜!ジョニーちゃん結構人気でさあ、頼むよ!」 ちょっ手品なんて知らんよ私は! しかし館長とはこの施設ができた頃からもう10年以上の付き合いだ。今やジョニーちゃん、ヤッちゃんの仲だ。 断るわけにはいかない! 手品のネタを仕入れなくては……

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そしてついに今日は日曜、手品教室の日になってしまった。 生徒は三井のオバちゃん(62)と横田のじいちゃん(84)、そしてひ孫のはるくん(5)。 「えー、スプーンのここをこう持って、お客さんに見えないようにここを押すと、実はスプーンは簡単に曲がり……あれっ」 曲がらない。 いつもは超能力を使って曲げているからだ。 さてはあの、「簡単! 手品種明かし」という本はインチキだな。古本屋で百円だったし。

lalalacco

11年前

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ううむ。ここは超能力を使おう! 自分だけでなく、お客さんにも超能力を「照射」するのだ。ここは是が非でもやらねば! 「えーと、そこのオバちゃん。うん、三井のオバちゃんね。ちょっと、こっちに来てくれるかな〜〜?(あまり遠いと、超能力で狙い撃ちできないのよ)」 観客は半信半疑である。 「じゃあ、スプーンをみんなに見せて? 曲がらないよね。ちょっと、こっちに向けて。そうそう!」 今だ! ビャーーー

響 次郎

11年前

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「「おぉ〜曲がったぁ!」」横田のじいちゃんとはるくんが、クタリと首を折ったスプーンに歓声を上げる。 一拍遅れて三井のおばちゃんが、2人以上に興奮しながら手品の成功を喜んだ。 ふぃ〜何とかなった。 と安堵したのも束の間。口を尖らせたはるくんが「ぼくもやりたい」とフォークを手にする。 「あ、はるくん!フォークは上級者向けで…」 マズイ!タネのない食器は曲がらないよ!って、え? 曲がった……⁉︎

おやぶん

10年前

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「おお!流石わしのひ孫!はるくん凄いぞ〜」 「あら本当、上手ね〜はるくんは」 横田のじいちゃんと三井のおばちゃんはチビッ子を褒めちぎる。 調子に乗ったはるくんは、 「ひいじいちゃんおばちゃん、こんにちは」と言いながら、スプーンの頭をお辞儀させては再び真っ直ぐに、そしてまたお辞儀を何度も繰り返している。 「先生、どうですひ孫は。才能ありますか」 「…あはは」 冗談じゃない!天才エスパーじゃねーか!

真月乃

10年前

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そう胃の辺りで叫んだ時。 「お兄さん、ちょっと」 はるくんが、こちらに小さな手を差し伸べてきた。 そして握り返すと••• ポンッ! 「ジャーン、ひよこさん!」 中から可愛いひよこが誕生。 そして驚いた私を見て、はるくんは意地悪く笑った。 カチン。 「はるくん、私の口をごらん」 ポンッ! 「はい!口の中から、なんとニワトリさんが出てきましたー!」 はるくんが悔しそうな顔をする。

しとっぴ

10年前

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「かしてっ」 はるくんはニワトリを引ったくると、宙へ投げた。落ちてきたそれは、ぬいぐるみになっていた。 負けてたまるか!スカーフを取り出して、ぬいぐるみにかける。スリー、ツー、ワン‼︎ 無数の鳩が飛び立つ。やはり手品には鳩がよく似合う。 三井のおばちゃんと横田のじいちゃんが手をばしばし叩いている。…決まった。 「今の手品、何から始めればいいのかしら?」 おばちゃんの一言で私は現実に引き戻された。

のんのん

10年前

- 完 -