「魔女っ子が貴方の家に! 可愛い魔女っ子が貴方の家を訪問し、少しの間、貴方だけの魔女っ子としてお話をしたり魔法をかけたりしてくれます。 貴方の夢か叶うかは貴方次第です! ※魔女っ子へのスキンシップは厳禁! 禁を犯した者はヒキガエルになる呪いがかかります」 ついに世の中のクレイジーさもここまでキたかと思った。 俺はポストに入っていたチラシを一瞥するとガサガサと丸めた。 魔女っ子、て。
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チラシはゴミ箱に捨てたのだが、 後になって妙に気になり出す。 聞いてみるくらいはいいだろう、 悪徳業者にしても、公衆電話からなら身元はわからない。 そうだ、試しに問い合わせてみよう。 俺はゴミ箱からチラシを取り出した。 家の近くの公衆電話から電話をかける。 すると、すぐに誰かが出た。 「はーい! あなたからのお電話まってました! 今日からお世話になります! あなたの魔女っ子ですぅ!」
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「あの、うちに来てほしいんだけど、料金はいくらかかるのかな」 かわいい女の子の声を聞き、キャバクラで遊ぶ程度の金額なら、来てもらってもいいかと考えていた。 「いまあたしは修行中なので、無料でおうかがいします!」 相変わらずの元気な声で返ってきた。 無料だなんて、ますます怪しいじゃないか。修行中? なるほど。俺は受話器を戻すことにした。なんのことはない新手の宗教の勧誘だ。 「待って、切らないで!」
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「お兄さんの事は、残念でしたね」 息が止まった。兄は先月亡くなった。いろいろごたついていたのがようやく落ち着いてきた所だった。 「お前、誰だ?不謹慎ないたずらはやめろ」 「怒らないで下さい!私魔女っ子だから、そういうのわかっちゃうんです」 頭の中のアドレス帳をひっくり返して見たが、こんな声をしていてこんないたずらをするような不届き者は俺の知り合いにはいない。 俺は、この魔女っ子を信じ始めていた。
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「まだ犯人も捕まってないでしょ」 「うっ!」 俺は驚きと同時に、コイツなら犯人がわかるかもしれない。と思った。 「よし、お前来い。指名する」 「やったー、ありがとうございま〜す」 次の瞬間、ボンッと煙が立ち込め、なんとコイツが立っていた。 「ず、ずいぶん早いな」 「だって魔女っ子ですもの」 俺の猜疑心は確信に変わっていた。
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「なぁ、お前魔女っ子なら兄を殺した犯人もわかるのか?」 俺はドキドキしながら聞いた。 「うん。知ってるよ」 「教えてくれ、このとうりだ」 「嫌だ」 「どうして?お前俺の言う事聞いてくれるんだろ?」 「うんそうだよ。でも私にできるのはお話したり、魔法をかけたりする事だけ。それ以外の事は絶対にやっちゃダメって魔王様に散々言われたから。」
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魔法かける……犯人……そうだ! 「俺に過去を見る魔法をかけくれ!」 「無理ですっ」 即答だった。つくづく役に立たねぇ…… 「修行中ですからそんなに魔法は使えないんですよぉ……」 泣きそうな少女を無視し、俺はさらに考える。そういえば…… 「俺も魔法使えたんだっけな……」 「えぇっ!?」 ビックリする少女を余所に、俺は魔法の準備に取り掛かる。 残り時間も少ないのでちゃっちゃと犯人を見つけようか。
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さてと、準備完了。 もちろん、あんなの口から出まかせだ。大体俺が魔法使えるなら、最初からあんなチラシ宛にするわけがないだろう。こうして尤もらしい魔法陣っぽいものでも描いて呪文っぽいのでも唱えて、「これは危ない魔法なんだ」とか何とか言って彼女をビビらせればいいんだ。 俺はにやりと笑って少女の方を見た。すると彼女の顔は蒼白になっていた。その様子に驚いていると、少女はわっと泣き出した。
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ーー「もしもし、こちら魔法少女探偵局です」 魔法少女との出会いから三年。俺達は探偵事務所を設立した。 あの後、魔法少女の卓越した能力を駆使した俺は兄を殺した犯人を見つけ、逮捕させることに成功したのだ。 「はい、迷子の三毛猫ですね、承知しました」 ボンッ、と現れた彼女の腕の中には、件の三毛猫が。 魔王はどうしたかって? 実はヒキガエルになってしまったのだ。 俺の、人生一度きりの大魔法のせいで。
- 完 -