ガチャン…… この音で私は目覚めた。 頭に違和感があるのだが、なぜこんな状況に なったかさえも思い出せない。 手首は錠で、足は紐で縛られ まともには動けない。 周りを見渡すと 鍵の掛かったドアと殺風景な壁。 丁寧に鉄格子を掛けた窓もあった。 そして最も気になるもの、 20代半ばくらいの男性 何故私と同室なのかは気になるが プチプチで包装されているということが最も気になる。
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まずはその男について私は思考を巡らせた。 そういえば、今日は私の誕生日のはずだ。 この男がプレゼント……なのだろうか? いやそんなことは無い。断じて無い。無いと言ってくれ。頼む。お願いだ。 ……そんなことより。まずは、おかれた状況を把握しなければ。 視界にはいるものを述べよう。 鉄格子、手錠、紐、そしてプチプチで包まれた男……くそっ、これじゃただのギャグじゃないか! 早く脱出しなければ……。
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しかし、こんな状態では・・・ 私は身動きが取れない。どうしたものか。 それにしてもこの男、どこかへ出荷でもされるんだろうか・・・。とにかく、この男も脱出せねば何かよからぬことが起きるということは分かるだろう。脱出の役には立ってくれるはずだ。 起こそう。それしかない。 私は床を這い、男の隣まできた。そして寝転がった状態で、縄で縛られた両足を上へ上げ・・・ 男の腹部へ一気に振り下ろした。
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「グゥヘッ」 プチプチ男は吐血したぞ‼ ヤバイ… これはヤバイ… まぁ、でもこれでプチプチ男もおきるだろう。 「・・・・。」 起きない⁉ なんてヤツだ。 仕方ないもう一度、こんどは顔だ‼ ・・・・と、繰り返してるうちにプチプチ男が起きた。
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すっかり腫れ上がった顔でこっちを睨みつけている。凄い形相だ。 「いえ、あの、起こそうと思いまして・・」 プチプチ男は何も喋らない。目が覚めてこんな状況だったら誰でも気が動転するだろう。 「大丈夫ですか?」 「・・・よく・・っ・えろっ・・!」 「は?エロ?」 「何のために包装しているのか、よく考えろと言っているっ!!」
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何の為か。 「あれですよね。傷付きたくないんですよね。」 男は物凄い形相で怒鳴った。 「分かっているならァ‼なぜ‼攻撃する‼」 あまりの声の大きさに思わず萎縮する。 「ごめんなさい…」けれど私にだって言わなければならない事がある。勇気を出せ、私。 「あの…あなたは…その…何故包装されているんですか。っていうかここどこですか。この手錠なんなの?」 いけない。ついツッコミすぎてしまった。
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「さっきも言っただろう!傷付いたらいけないからだ。ここは密室以外何に見える。手錠はお前が変な行動を起こさない為に決まっている!」 男は意外にも全てに答えた …だがどれも少しずつ的を外している 「…あの、出来れば日本の地図上どこってことを知りたいんですけど。ていうか、あなたはこの状況焦らないんですか?脱出するのに協力しようとか、そういうのないんですか?」 ふん、男はバカにしたように鼻を鳴らした
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「ここから脱出? 死にたいのかお前は。」 「俺はある国の伯爵夫人のペットとして売られることが決まっている。今そんなリスクを犯すバカがどこにいるんだ?」 どうやら男はこの状況の事がわかっているようだ。 伯爵夫人に売られる? 私も同じ状況に置かれているのだろうか? おそらく私の売られる先も男は知っているはずだ。 どうせ売られるなら何処かのお姫様がいい! 「私も誰かに売られるんですか!?」
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「お前は繁殖に使われるんだよ。」 男は芋虫の様に体をくねらせ私の方へどうにか体の正面を向けた。 「心配するな。ほら、俺はこの通りだ。」 男は去勢されていた。 「お前のお相手は、それなりの血統の持ち主になる事だろうよ。」 男はさらに続けた。 「俺はいわば雑種だからな。俺は前の飼い主に飼育放棄されてね。今度の飼い主に拾われたのさ」 男は嬉しそうに笑った。
- 完 -