「ヒマだね〜」 「そうだね〜」 放課後、人けのない教室で生徒が駄弁っている。2人とも帰宅部のはずだが、ひょんなことからこうやって人のいない教室に集まるようになっていた。 「なんかいいことあった?」 「いんや、なにも」 「俺はあったぜ。なんと落ちると思ってた小テストが受かったんだ!」 「僕はダメだったよ…」 「……」 と、こんな感じに今日もしょーもないことを話している。
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ガラガラ!バン! 突然の音に暇人二人は雷でも落ちたのかとビクついた。がそれは教室の引戸が勢いよく開いた音だった。 見るとそこには一人の女子が大の字になって立っていた。 「君達!溜まってんでしょ?あたしとしよ!」 暇人二人は顔を見合わせ、一瞬の間の後に、ぶーーーっ‼と吹き出しバカ笑いを始めた。 「腹イテェ!なんだこの女子」 「ぷはは、AV見過ぎだろウケる~」 「何言ってんの?入部の勧誘よ!」
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『え』 2人の声が重なる 「だーかーら!部活!ほら、これ。」 みるみる赤くなっていく2人をよそに少女はてきぱきと何らかの紙を鞄から出す それには、大きな海をバックにどでかく「部員募集!」と毛筆体で書かれており、そして下に小さく「新しい自分に飛び込もう!イルカ部」と書いてあった 反論しようとしたのだが、それより先に 「さっきのこと、言ってもいい?」 とお姉さんスマイルで凄まれてしまったのだった
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変に弱みを握られてしまった。 「お前がAVとか言うからだろ?」 「何言ってんだよ、お前だって笑ってたじゃんか」 「もう!過ぎたことは諦めなさいよ!そんなことよりも、イルカ部の入部届は書いたの?」 先輩に監視されながら、入部届を黙々と記入して行く。 「あの、入部するのはいいとして、イルカ部?って何する部活なんですか?」 「あ、それは俺も気になってた!イルカを見たり、愛でたりする会とか?」
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「あんた達、イルカを見たり愛でたりして満足するの?変態なの?」 変態、と言ったあたりの眼の冷たさが半端でなかった。 「ここに書いてあるでしょ『新しい自分に飛び込もう!』って」 「書いてますけど...」 次の瞬間、彼女はピンクのボールと、虹色のフラフープを握っていた。 「どこから!?今どこから出した!?」 「うるさい!」 再び仁王立ちになる先輩。 「さあ飛び込もう!あんた達は今日からイルカよ!」
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「「はい?」」 と、一瞬の隙をついて先輩は書き終えた入部届を取り上げた。 「じや、早速今日から練習を始めるから来てね♡」 「「えええーー⁉」」 という訳でその日の放課後、二人は水着姿でプールにいた。二人は周りを見るが、他には誰もいない。 「なあ、一体何をやるんだろ…」 「さあ…」 「お待たせ〜♡」 「「え⁇」」 先輩は水着姿…ではなく、ポロシャツに短パン姿だった。首にはホイッスルを掛けている。
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「ぉい....嘘だろ」 「泳げってか⁈」 ホイッスルを高々と持ち上げて鳴らす構えをとる先輩に奇妙な違和感を感じつつ、自然と飛び込むポーズをとらされていた。 「さ♡イくよ!」 「だから誤解しそうな喋り方すんなよ!」 そうてピンクのボールと虹色のフラフープをプールに投げ込むと勢いよくホイッスルを鳴らした。 「飛び込めっうみぶた!」 「「⁈」」 派手に水飛沫をあげながら水中に潜った2人はあるものを見た。
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学校のプールに、鮮やかな水色のイルカがいたのだ。二人は目を見張った。 そのイルカは女の子の笛の音に合わせるように時折プールから顔をのぞかせる。 「…トンフィだ」 1人が唐突に声を上げた。もう1人は知らなそうに首を傾げる。 「え、なにトンフィって」「知らないのかお前!学校の、七不思議の一つにあるんだよ!この学校には泳ぐ豚がいるって…」 「あ!そうか、いま先輩うみぶたって!」
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トンフィは先輩の笛の音に合わせて華麗に泳いだ。イルカショーのイルカ顔負けの泳ぎに2人はただ見とれるだけであった。 「おいでよ」急に声が聞こえた。「えっ!?」2人は振り向いた。 そこにはトンフィがいた。 「一緒に泳ごう。」 「お、おう…」 2人は戸惑いながら泳いだ。だが、そのうちなんともいえない解放感を感じ、我を忘れて泳いだ。 その夏、二頭のトンフィが生まれた。
- 完 -