あさがお日記 二年二組 一日目 今日、あさがおの種をうえました。そのあとで、水をあたえました。あさがおはいつ芽をだすのか、楽しみです。 十日目 今日も水をあたえました。でも、あさがおはまだ芽を出しません。いつになったら、芽を出すのでしょうか?もう少し先なのでしょうか?早く出てきてほしいな。
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十五日目 今日も芽は出ていません。お父さんが気になってインターネットでしらべてくれました。 すると、あさがおは二十日ぐらいで芽がでるそうです。あと五日、たのしみです。 二十日目 まだ、芽は出てません。毎日水はあげているのになんでだろう。 でも、土のまん中あたりが少しもり上がっている気がするので、少し出るのがおそいのかなと思いました。 がんばって早く芽を出してね!
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二十五日目 はっぱが出てきたので、とてもうれしかったです。でも、お父さんに「これはざっ草だよ」と言われてぬかれてしまいました。 あさがおのはっぱではありませんでしたが、せっかく出てきたのにかわいそうだと思いました。
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三十日目 今日はしゅっこうびだったのであさがおをもっていきました。 ゆう君のはもう30こも花がさいたそうです。まみちゃんのはつぼみがいっぱいついていて、芽が出てないのはぼくだけでした。 三十五日目 ゆう君が芽の出るおまじないを教えてくれたのでやってみました。 子犬のヒゲを三本とトカゲのしっぽをさして、水をあたえました。 明日には芽が出るそうです。明日になるのがすごく楽しみです。
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三十六日目 今日、ようやく芽が出ました! でも、図かんで見たことのあるあさがおとは違うし、ゆう君やまみちゃんのあさがおとも違うみたいです。 とても大きな芽です。本当にあさがおが咲くのかな。少し心配です。 四十日目 あさがおは、ぼくの手におえないくらい大きくなりました。たった4日でぼくの身長を追い越し、幹もすごく太くなりました。ギザギザの歯みたいなのがついた大きなつぼみがふくらみはじめています。
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──少年の日記はここで終わっていた。 刑事は額の汗を拭った。今日は9月2日。まだまだ夏だ。 「だがそんな現実があるのか?」 「でも刑事長、室内は争いの痕跡もなく車や貴重品の類もそのままです。父親は仕事も順調だったようですし、夜逃げというのも考えにくい」 「だから君は『朝顔』…便宜上そう呼ぶがね、それにこの家族が襲われたと?」 じゃあ犯『植物』はどこだ? その時若い警官が刑事の背後を指差した。
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「窓が開いています。恐らくそこから外へ脱走したものかと。朝顔は自分で開けたのだろうか…となると相当知能が発達して…」 刑事部長である自分の付き添いで現場に来た若い警官の突飛な考えに溜息を漏らす。 「植物が人を襲うなんて信じられるか。第一、血痕も無ければ争いの跡すら無いんだぞ。失踪事件として見るのが普通だろうが」 そうなると担当は自分じゃない。 報告をしに浮かない顔をした警官を連れて戻ろうとすると、
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「本当にそう思いますか」 ゾクッ。 ……なんだ、今の寒気。声の主、警官を見遣る。 「あ、ああ。植物が人間を襲うなんて事例は空想の世界でだけだ」 辛うじて答えると 「それなら良かったです」 警官は明朗に笑う。 十五年──時効間際の異例の再調査は異常もなく終わりを迎える。 「安心しましたよ、再調査なんて聞いたので、真相が覆されるのかと」 先程の違和感が嘘のように廃虚の緊張は溶けている。
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と、その時 「すいません!刑事!」と調査員 「ああ?どうした?」 「ふぅふぅ、はぁ、はぁ、…仏さんが、見つかりゃした!」 「ああん?」 遺体は、骨しか残っていなかったが、ボロボロになって、まるで何かに喰われたようだった 「こりゃひどいな…鑑識に通すか…」 そう言った時だった。 …目の前が暗くなる。 「あなたたちは、ついに見つけてしまっ…」 最後の言葉は耳から遠く、離れてゆく。
- 完 -