籠鳥と守り唄

甘い毒を吸い込んで、
踊れ、踊れ。
彼女はさえずる、籠の鳥。
重ねた言葉に溺れて、埋れて

飛ぶことなんぞ出来やせぬ。

さえずる唄は 真の呪
示すは、愛する者のため
導け、導け。

そなたは夢、そなたは心。

柚ノ香
- 1 -

幼い頃から俺の村に伝わるしきたり。

一年に一度、山の神に感謝するため、祭を行う。
村の子供たちは、美味しい食い物が食えるので毎年今か今かと祭を待ちわびていたが、俺はこの祭りが嫌いだった。

その理由は、祭りの最後の日に、大きく組んだ木の櫓に火を放ち、皆で歌を歌いながらその周りを踊るからだ。いや、踊ることが嫌なのではない。その歌というのが、俺にはこの上なく不気味に思えるのだ。

人の輪に目をやる。

虹のコヨーテ
- 2 -

踊れ、踊れ。
彼女はさえずる、籠の鳥。
飛ぶことなんぞ出来やせぬ。

子供たちが、歌詞の意味も考えず無邪気に歌っている。
炎はごうごうと音を立て、物の怪でも憑いたかのように赤々と燃え上がる。
恐ろしいのは、誰もこの不気味さに気付いていないこと。
今宵、祭を楽しんでいないのは、俺一人。

居ても立っても居られなかった。俺はそっとその場から離れた。
「どこへ行くんだい、コウ」
長老の声も聞かずに走る。

kam
- 3 -

走って、走って、炎も火の粉も見えなくなったころ。真っ暗な周囲を見回して、心細さの中にひっそりと存在する安心感に息を吐く。

風が、落ち葉を攫っていった。
耳に飛び込んできたなきごえに、俺は思わず肩を跳ねさせる。

ざわざわと木々が相談でもするかのように唸る。巻き上げられた落ち葉の幕のその奥から、俺は目を離せなかった。

夜鵺
- 4 -

木々の間の深淵より光る紅眼が二つ。ぞろり、ぞろりと紅い影は大きくなっていく。しまった、と気づいたときには遅かった。暗闇を求めるがあまり、俺は山に近づきすぎていた。山は恐れ多い。
「お前はなんだ」
返事はない。おんおん唸る風が吹くばかり。
「俺はうまくないぞ」
返事はない。振り返って逃げようにも、腰が抜けて立ち上がれなかった。

遠くで村の踊りの音が止んだ。祭りは終わったらしい。

aoto'
- 5 -

「あの歌は好かぬなァ」
遠くとも近くともつかぬところから、ふうっと女の声が聞こえてきた。まるで、踊りの音が止むのを待っていたかのようだった。

生温い風が、不意にぬるりと首筋を舐める。
「な、そなたもそう思うであろ」
婆のように嗄れた声が、喜びにうわずる。出来るなら悲鳴をあげたかったが、恐怖に凍りついた喉からは、あ、ああ、と情けない音が漏るばかり。

「あれは呪いの唄なのさァ」
囁く声は、耳元に。

lalalacco
- 6 -

後ろから吹く風に、自分のものではない長い髪がなびいたのが見えた。
「あたしを呪う唄なのさァ。あぁ、憎い憎い」
憎いと言いつつも、声はくつくつと喉で笑う。

「そなたも、これが嫌いか。気が合うのう」
背中を冷や汗が伝うが、拭うこともできず、じわと動くそれが気持ち悪い。
本当にこれは、神に感謝するための祭なのだろうか…それとも──

「違う」「チガう」
コウの声に声が重なる。
「これが、そなたの声か」

のんのん
- 7 -

声が重なった瞬間、声帯という器官がパチリと音を立てて壊れた。

──何、が、起きて。

「アア、これでまたひとつまたひとつ、疑わしきものの声が手に入った。あと少し、あと少しであの人に……」

老婆の声は遠く、俺の意識も遠のいていき──理解した。

何故彼らがこいつを神と呼ぶかを。

──これ以上犠牲者を出さないようにするためか。

「馬鹿な子だね──あんた」

音が聞こえた。

ヲヲニシ リュウセイ
- 8 -

……ばあちゃん。

祭りの白装束を着たまま。ばあちゃんは俺の後ろをじっと見つめ、口を開く。

──踊れ、踊れ。
彼女はさえずる、籠の鳥。

「アア!あ、ァ……」
俺の声が苦しみ、元の老婆の声へ。

ばあちゃんは声を大にして歌い続ける。

──さえずる唄は 真の呪
示すは、愛する者のため
導け、導け。

しわがれ声はやがて若いカナリアのように。

「籠は今開かれん」

暗闇に鳥の羽ばたきが聞こえた。

るーさん
- 完 -

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