『私を探して下さい』 そうメッセージを残して長谷部が消えた。 真夜中に電話がワンコール。 少しして、FAXが流れてきた。 (…なんだよ) うるせーと思いながら、真夜中のFAXが気になり、電話機のほうを見ようとして俺はソファから落ちた。 「っ痛」 片目で見た時計はもうすぐ午前三時になろうとしていた。 FAXは長谷部からだった。 冒頭の一文。 俺はFAXを床に放ってソファに戻った。
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寝直そう、そう思ったが寝付けない。 冷蔵庫から缶ビールを出して飲み始めた。 (…ったく、長谷部の奴、夜中に人騒がせな野郎だ) いつだってそうだ。 己のの怠惰、失敗で二進も三進もいかなくなると他人を頼る。 (知らねーよ) そう嘯いて床のFAXを丸めゴミ箱に投げようとした。 が、もう一度開いてみる。 いつもは几帳面で小さな文字を書く長谷部にしては文字が乱れている。 胸騒ぎがした。
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FAXの送信元を確認する。 近所のコンビニからだった。 (何でもなかったら今度こそ縁を切る) そう思いながら家を出ていた。 コンビニにつくと長谷部はいなかった。 日頃の運動不足がたたって、肩で息をする俺に店員の視線が刺さる。と、その店員が近づいてくる。 「工藤さん?ですか?」 「なんで知ってる?」 なんとなく予想はつくけど… 「長谷部さんがこれを渡してくれって」 差し出されて受け取る。 これ…
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長谷部の字…暗号?…か? 「気をつけろ。 私は星達が誓い合う木の下で待つ。」 (全く意味わかんねー… でも、店員まで使って、あんなFAX送ってきて、完璧気味が悪い。長谷部の野郎…何があった!?) 店員に詳しく話を聞こうとしたが、長谷部に頼まれただけで事情は何も聞いてない様だ。 俺はというと、実は、この "星達が誓い合う木の下"っていうところがなんか引っかかる。思い出せそうで思い出せない…
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星には詳しくないが点を結ぶ形で一つの星座になり、その一つ一つに神話があるのは知っていた。常識として。 明るい店内から何も買わずに出るのは気が引けて冷たい缶に手を伸ばし、鏡になったガラス張りの壁に映る情けない顔と目が合った。慌てて目を逸らしたが、もう遅い。 面倒なことに俺の中には長谷部を助けたい俺がいるらしい 溜め息を何回か吐き頭を振ってタクシーに飛び乗った。行き先は? 「木下プラネタリウム」
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車の扉が閉まると運転手がミラー越しに、叫んだ。 「嘘だろ?おい、なんでお前なんだ!」 聞き覚えあるその声、長谷部?! 「おい!こっちのセリフだ!長谷部!なんだあのFAX!なんだ!星の下って」 「お前何いってんだ!俺は借金の肩代りにここから木下プラネタリウムに行くって奴を拾って工場跡地まで連れてくだけだ!お前!何やったんだ!殺されっぞ!」 後ろからぴったり、白いセダンがついてきていた。どうなるんだ。
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「はぁ⁉ちょっと待てって…だってお前が俺にFAXを…」 「ファッススゥ?知らねーよ。てかどーすんだよこの状況!」 おいおい…俺変なのに巻き込まれちゃったよ。 「どっか脇道から逃げる…とか」 「道順はあいつらに完璧に教え込まれたんだぞ。そんなことできるわけないだろ!」 「じゃあ俺はこのまま殺されんのかよ!」 「なぁ…もしかしてあいつらの目的は本当にお前なんじゃないか?」
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「はあ?俺借金とかねえし、やばい奴に関わった事なんかねーよ!」 「他になんか無いのか?変なもん拾ったとか、変なもん見たとか」 最近は同じような毎日の繰り返しで、変わった事なんて思い浮かばない。 「あ!最近拾った」 「何を!?」 「福引き券」 「違うだろ」 他に・・・そうだ、今日は 「由里と付き合ってちょうど3年目か」 そういえば由里がなんか言ってたような、プラネタリウムがどうとか・・・。
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「いやいやいや、長谷部の名前を使う必要ないよね。長谷部の借金の肩代わりまで引き受けるとか、意味わかんない展開だし」 「俺とすれば、是非とも由里ちゃんとお前が結ばれて欲しい」 「すでに結ばれてるんだって」 辿り着いた工場跡地には廃材を利用した、電灯の木がたてられていた。蒼い光を放つそれは星達が誓い合う木のようだった。木の下に由里がいる。 「なんてな。福引きは俺からのプレゼント。由里ちゃんと末永く」
- 完 -