もし、明日世界が終わらないのなら

「この世界は明日で終わります」 休日の昼下がりのいつものニュース、なのに突然、さらりと耳を疑うような言葉が聞こえてくる。 聞き間違いだったかと思うほどに非現実的な内容で、でもはっきりと、間違いなく… 外の様子も、いつもと何ら変わりはない。 もっと騒ぎになっていても良いはずなのに。 「やっぱり何かの間違いだったんだ」 そう安堵した。 しかし、ふと目に入ったカレンダーの日付は、明日で終わっていた。

TSUBAKI

9年前

- 1 -

カレンダーがそうなっているということは、随分前から世界の終わりが予定されていたのだろうか。 「続いて明日のお天気です」 テレビに天気図の前に立つ涼しい顔をしたお天気お姉さんが映し出される。 「明日は全国的に雲一つない晴天となるでしょう。この世界の最終日、大切な人とどこかへお出かけしてみては?」 何を呑気な…と呆れているところへ携帯が鳴った。友人からだ。 「ねえ、今夜ヒマなら飲みに行かない?」

hayasuite

9年前

- 2 -

なんということだ。 消極的で、電話どころかメールすら送ってこなかったあいつが…? 「明日で世界が終わる。そしたら、私の気持ちも消えてしまうから」 …どうやら俺以外の人間は明日で世界が終わると思っているらしい。 「了解。時間とか場所は後でメールする」 思い返すとやりたいことが沢山あった。 今のうちに終わらせるか、と思って我に帰る。 「明日で世界が終わる?太陽は爆発しそうにないな」

futa

9年前

- 3 -

まるで実感がない。世間もいつもと変わらない、が、皆明日で最後と声に出している。何故普通でいられるんだろうか。これが日本人のモラルなんだろうか。 俺はあいつとどんな態度で会えばいいだろうか。誰かが言ってたっけ、今が最後だと思って真剣に生きろと。 今からやることなすこと総てが最後かもしれない。自転車に乗るのも靴を脱ぐのも風呂に入るのも。 もう最後、俺は一番気に入ってる服で鏡に映る俺に気合を入れた

KeiSee.

9年前

- 4 -

部屋の中を見回す。腕時計、ギター、スニーカー。どれも愛着があるモノ。だけど全部抱え込んでるわけにもいかない。最後なら、友達とバカ話でもしていよう。そうしよう。 早めに外に出た。誰もが普段通り歩いている。パン屋から店員が「タイムセール全品20%引き」の札を持って現われた。 いくらなんでも、ありのまま過ぎないか?本当に世界は終わるのか、終わるなら僕らはこんな風でいいのか。急に心配になってきた

en_moan

9年前

- 5 -

しばらくして待ち合わせ場所の公園に着いた。まだあいつは来ていないらしい。暇を持て余し、周りの様子を伺う。 ベンチで談笑する主婦、近くの遊具で遊ぶ子供、散歩する老人…ありふれた光景だった。 「修哉!」 そこへあいつが駆け寄ってきた。何だかいつもより可愛く見える。 「ごめん、待った? 時間通りに着いたと思ったんだけど」 「いや、時間通りだ。俺が早めに家を出ただけさ」 「良かった〜」 俺達は公園を出た。

6年前

- 6 -

朝の不可解な予言から初めて人と話して、俺は思わず疑問を口に出す。 「明日世界が終わるって本当かな」 何でもないという風に肩をすくめる。 「そうみたいね」 肩透かしを喰らった俺を、からかうようにのぞきこむ。 「こわいのぉ〜?」 そして無邪気に笑う。 「おまえは?」 「私?私はむしろこの事実に感謝してる」 眉を顰める。 「こんなことでもなかったら、きっと一生君に言えなかったもの」

はまち

6年前

- 7 -

彼女はそう言うと、数秒前までの悪戯な笑みを放り投げて、真剣な表情になった。 「あのね…」 真っ直ぐ、瞬きもなくこちらを見ていた。 「私、東京行くことにしたから」 「へ?」 「大学、東京に行くから」 期待した俺が馬鹿だったと思った。世界の終わりに、愛の告白なんて…。 「って、世界が終わったら大学もクソもないだろ?」 するとあいつはまた、俺を揶揄う様に笑った。 「そう言えばそうだね」

- 8 -

何バカなこと言っているんだろうね、と彼女が続ける。どこか無理をしているような気がして心配になった。 本当はわかっている。その告白の意味することを。 でも、最後の日、だから。だから、笑いあって、核心には触れずに回避しておいて、そうして明くる日を迎えたかったのだ。だって、せっかく東京行きを決意したのだから。 やっぱり何かの間違いだったんだよ。 「バカだなぁ」 いつもと同じありふれた光景だった。

aoto

6年前

- 完 -