スイーツ男子

コンビニスイーツの新作が出るらしい。甘いものに目がない熱田は、朝から興奮を抑えられないみたいだ。 「あぁ、早く授業終わってくれ!早く食いてぇ。なぁ、新田!」 普段、俺にあまり話しかけてこないくせに今日はご機嫌だ。 「アホか、まだ一時間目も始まってへんぞ。それより英語の小テストは大丈夫なんか?」 「もう小テストなんてどうでもいい!スイーツだ!」 俺の華麗なるツッコミは軽く流された。

紬歌

7年前

- 1 -

俺はそこまで甘いものに興味がないし、買い物はスーパー派だ。事前に新商品の情報を掴むこととも無縁である。 「スイーツならドンジョンが有名だけど、俺は昔っからミミスコップ推しなんだよ。ボリューミーなのにリーズナボ!!」 適当に聞き流しつつ、小テストの範囲を攫う。どうして英語圏の人間は、このスペルでgを発音せず我慢できるんだろうか──? 「ミントときたら普通チョコと思うだろ?! けどミミップは違うぜ」

- 2 -

クッキー生地の上に塗られるレモンムースとレモンソース。今話題の瀬戸内レモンを使ったというタルトケーキ。清涼感マシマシの一品だ。熱田の解説は止まらない。 「ほな、放課後一緒にいこか」 こう言っておけば、熱田の熱も落ち着くだろう。沸騰しやすい性格なのだ。けれど、このときの俺はまだ知らなかった。 「今日の新作はエクレアだってさ!このエクレアすごいんだぜ?」 連日コンビニ通いをする羽目になるとは。

aoto

7年前

- 3 -

あれから一週間。 「なぁ新田!!」 今日もまた来た。 「もう…今度は何なん?」 満点の小テストを鞄にしまいながら、お粗末な点数の小テストを握りしめた熱田の輝く瞳を一瞥する。 「今日はシュークリーム買いに行くぞ!」 「ほんま飽きへんな。」 この一週間、毎日コンビニに行っては熱田おススメスイーツを食わされる。 「スイーツは別腹!」 「そんなことより、その残念な小テストどないかせなあかんのちゃうん?」

- 4 -

「今日も行こうなッ」 「なんや、えらい気合い入ってるなあ」 小テストに毛が生えた程度の難易度の中間テストを終えた熱田は今日も元気そうだ。俺も熱田の付き添いと言いながら涼しい店内を求めて毎日同行している。 今日の熱田のお勧めはフラペ。期間限定のマンゴー風味に夏の訪れを感じる、というのは熱田の談だ。 「よくもまあ飽きへんよな」 「一生もののライフワークになりそうだからな」 「おいおい、勘弁してや」

7年前

- 5 -

「おい、熱田。どうした熱田」 「男は黙ってコーヒーだろ」 おかしい。昨日から熱田がお決まりのミミスコップでブラックコーヒーばかり注文するようになった。 因みに校舎正門から徒歩5分の素晴らしい立地。 「そんなん言っても……お前カフェオレに砂糖増し増しやないと飲めんかったやん」 「甘い物?……フ、邪道だな」 「一生もののライフワークどこ行ったんや」 暑苦しいキメ顔をスルーし英単語帳に目を落とす。

- 6 -

「フッ、俺は気付いたのだ!スイーツより大事なものを!」 「ほう」 「それは!脳の覚醒!そう、スイーツでは真の覚醒に至らない事を知った俺は出会ったのだ!コーヒーの存在を!」 「ほうほう」 「コーヒーあれば、深夜であっても脳の覚醒が出来る!これぞ、真の境地!」 それを聞いた俺は、一つ溜息をついた。 「…要するに、英単語のテストで赤点取って、再テストの為に徹夜で勉強してたっちゅー事ね」 「…うん…」

hyper

7年前

- 7 -

あぁもう、ほんまに。 「なんで熱田みたいなやつがモテるんやろうな」 言った瞬間熱田は顔を赤くした。 「全然モテてないじゃん!何言ってるの!」 「でもこの前1組の吉村さんに告白されたんやろ?めっちゃ噂になってるで」 「え…そうなの?」 「それに、早川にも告白されたんちゃうん?」 「はぁ?!されてないよ!」 熱田は心底驚いた顔だった。 「でも伝えたいことがあるって手紙貰ってたやん。聞こえてたで」

- 8 -

「田中のメアド教えてって頼まれたんだよ。中学同じだったからって」 「教えたんか?」 「断った。あんなチャラ男のメアドなんて知らねー」 「代わりに自分のメアド渡したったら良かったのに」 「いや俺、吉村のことが好きだから」 「それ、噂がホンマやったら両想いやん! なんか奢ったろか?」 「マジ?! じゃあこの数量限定ミラクルパフェで」 「たっか!」 こうして俺達は今日もコンビニでスイーツをつつく。

7年前

- 完 -