お昼過ぎの教室ほど、眠気を誘うものはない。 僕は、さほど真面目でも不真面目でもない、ごくごく普通の中学生だ。だが、この時間帯だけは、堂々と寝ていても先生に呆られて起こされない不良を忌々しくも、羨ましくも思った。 彼らは惰眠を貪る権利を、先生との喧嘩の末手にする事に成功したのだ。その代わり、将来の保証はないけど。 彼らに許されるなら、僕らのような非行に走らない一般学生にも眠る事を許して欲しいものだ。
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と、いう訳で僕は先生に交渉を試みた訳だ。 そしたら案の定 「じゃあ学校ではなく家に帰って寝ろ。お前は学校に来るな」 先生の説教において一番言い返しがきかない説教をされた。まあ、先生の言う事は正論だ。間違ってない。しかしそしたらあの不良はどうなんだ!?これは平等権の侵害だ! 僕は憤り、何としてでも学校でのお昼寝の正当化を実現させようと、決意したのである! その為にはまず、仲間を集めねば。
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寝ることに、彼女の右に出る者はない。 橋下さんは、睡眠を中心に生活している。授業中は無論、昼休みもまでもを昼寝に費やす。 成績は超低空飛行を続け、進学さえ危ぶまれているが、彼女はどこ吹く風である。 彼女は授業中、先生に昼寝を注意されたとき、 「私の現実は夢の中にあり」 と云ってのけた。これは「橋下宣言」として学校界隈で知らぬ者はいない。 これはもう、絶対に欲しい逸材なのである。
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昼寝の猛者たる橋下さんは、あっさり協力を承諾した。 「お昼寝戦隊ネルンジャー結成だね。あたしはネルネルピンク」 しかし彼女の価値観は独特すぎて昼寝正当化交渉の戦力としては期待外れと言わざるを得なかった。もっと成績優秀なインテリメンバーを加えなければ。 「ネルネルグリーンには吉田君がいいんじゃない?」 橋下さん推薦の吉田君はクラスで成績二位の優等生。正しい姿勢を崩さずに昼寝する達人である。
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「は?ネルネルグリーン?なんだそりゃ」 吉田君は眉を顰めながら言った。 だから僕は事の詳細を語った。 吉田君は僕の話を最後まで静かに聞いてくれたが… 「俺参加できねぇや。悪い」 「な、なんで⁉︎」 「だって俺一応クラス2位だし。成績が下のやつらに余裕みたいな顔しやがってつって絡まれるのも嫌だし。悪いなー」 吉田君は手をヒラヒラ振っていなくなってしまった。 …落ち込んでる暇はないっ! 次だ!次っ!
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「というわけで、君をネルブラックに迎えたいんだけ、ど」 そう説明する間にも、調理部の高山君は立ったまま船を漕ぎ出した。さすが我が校の野比の◯太と呼ばれる逸材。これで成績が良いんだから不思議だ・・・てああ、鍋が焦げてる! 「わりわり、昨夜は8時間しか寝てなくてさ」 充分すぎないか?高山君は「わかったわかった、入る」とさも面倒げに頷くと、再び夢の国へ戻っていった。 ・・・ともかくこれで3人!
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「で、私がネルネルイエローになれって?」 田中さんは校内で一番の昼寝の偽造工作のプロだ。きっと彼女の力は必要になる。 「そう。頼むよ」 「うん、いいよ。そういう発想面白い」 よし。先生の目を完璧に欺いて昼寝をする技術が手に入る。彼女は一度も注意をされた事が無い程の実力者だ。 「じゃあ、宜しく。あれ?」 気付けば、田中さんはもう夢の中にいた。流石プロ。 ……これで4人。
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まがりなりにも戦隊を名乗るからには、もう1人欲しいところだ。 「またかよ」 というわけで、僕は吉田君の元へと戻ってきていた。相手は先生だ。インテリ枠は多い方が良い。 「グリーンではなく、格好いいブルーの座を献上したく」 こちらには睡眠のプロが揃っている。質の良い眠りはきっと勉強にも役立つ、というような事をつらつらならべていると… 「へー、高山もいるのか…ま、いいぜ」 …ついに5人揃ったぞ!
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「橋下さんがピンク、高山君がブラック、田中さんがイエロー、吉田君がブルー、そして君がレッドというわけだ。なら私は悪の大ボスかな?」 僕の話を聞いたおじさんは微笑んだ。 「んなわけないじゃん。おじさんは僕達の理解者のヨーネル博士でしょ」 「いやはや、私は敵かと思っていたよ」 握手されてはてなを浮かべる僕。 「今度の会議で午睡タイムを提案するよ」 ……仲良しのおじさんは校長先生だったらしい。
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