殺神器と選択者

「……先輩、帰ったんじゃなかったんですか?」
背後の昇降口から聞こえた声に、思わず身が強張る。
振り返れば、いつも見慣れた呆れ顔が立っていた。
「いや、その、暗くなる前に帰ろうと思ったのよ? 後輩からの気遣いを無下にするわけにはいかないしね」
下駄箱で靴を履き替え、昇降口を出たところまではよかったのだ。
……この空気では言えるわけがない。校門前にいた猫と今までずっと戯れてた、だなんて。

kanata

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「もしかして猫とたわむれていた、とか?」
ぐ。なんだこの後輩。読心術でも習得しているのか? それとも単に私の和やかな世界を目撃してた?
どちらにせよ、この後輩、【選択者】のコードネームで通る彼はまこと認めたくない事実だが、殺人鬼なのだ。
もう少し厳密に存在を確定するなら、殺神器。
神ゴロシの道具。
そしてその物騒極まりない道具の使い手こそ、何を隠そう私である。

私たちは意思を持つ道具を従える。

nezumicyan

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私は気づかれないように先輩を見つめた。先輩にはものすごい妄想癖がある。この前も自分の事を「神ゴロシの使い手」と名乗ってきた。そして私も「神ゴロシの兵器」という設定らしい。要するに中二病だ。

はっきり、
「先輩、それはただの妄想ですよ?」と言いたい。

普段は面倒見の良い先輩なので見捨てるのも気が引けるのである。

あながち外れてもいないけど。

hamadera

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「とりあえず、もう帰りましょう。猫もきっと家に帰りたがってますよ」

そうかも。と思ったような表情で先輩は猫に目を落とす。名残惜しそうに猫に別れを告げ私のもとへ駆け足で近づいて来る。教科書が入っていない先輩のショルダーバッグはパタパタと揺れた。

それさえも愛おしく映るこの瞳は、今どんな色で輝いているんだろう。先輩は私の理性を殺す愛すべき兵器だ。一部訂正するとすれば使い手も、彼自身なのだ。

kako

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夕暮れの帰り道。
さっきまでの会話が静まる。

無言でいく分歩いただろう。

nonta

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前方から飛び出してくるトラックに対し、先輩は、
「奴らが僕らをつけてきたんだ。気をつけろ。襲われるかもしれない。コミットレベルをあげなければ」
と叫んだ。
もちろん、トラックの運転手は露ほども悪くない。私たちがぼーとしていて信号を無視していた。

それにしても、どうやら、私たちは追われているらしい。
先輩が私の手を取って走り出す。
いつも身の危険を感じているだなんて、哀れだった。

aoto

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愛すべき後輩が戸惑っている。少し心が痛んだ。巻き込みたくはなかったが仕方ない。一緒にいたところを見られたのだ、このままじゃこの子も危ない。
いや。
突然立ち止まる。後輩が私に体当たりをかます。
今からでも間に合うかもしれない。
この手を放すのは惜しい。しかし、いつまでも私に付き合っていても、きっとこの子のためにならない。
先程よりも胸が痛む。これも一場の春夢。一世一代の決断だ。

sir-spring

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先輩の手が離れようとしていると察した私は、「離しません!」と叫んだ。
先輩は、私が強く握り返しながら叫んだせいか、驚いて足を止める。

「だって、そんな、えっと」

先輩は戸惑っている。自分の世界で生きてきたから、たくさんの人の手を離し、離されてきたのだと思う。でも、離したら先輩はずっと、その世界で一人なんだ。
私は、その世界を全部理解できないとしても、離したくはなかった。

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虚言癖で、妄想癖。
おどおど姿も可愛らしい。
握った手は力をこめて道路の端へ誘導する。

トラックは私達を見た時から速度を落としている。
通りすぎるトラックにとりあえず一礼。トラックはさっそうと去っていく。

混乱中の先輩。ええと、なんだったか、

「先輩私は、えっと、殺神器?何でしょう?」
「うん。や、えっ」
「なら一緒じゃなきゃいけませんね!」

とりあえずは第一歩。つないだ手ははなさい。

にらたま

- 完 -

作品情報

殺神器と選択者

#148

リレー期間

10ヶ月