シンデレラはガラスの靴がぴったりと合って王子様とめでたく結婚しハッピーエンド。 しかしシンデレラ以外の人たちも全員ハッピーエンドで終わったわけではありません。 シンデレラだけにスポットライトはあたっていてシンデレラ以外の人たちはただの脇役。 果たしてその脇役はハッピーエンドを迎えることはできるのでしょうか? たとえその脇役がシンデレラの意地悪な義理の姉であっても…
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まさか、あの娘が一国の姫になるだなんて。 私は皿を洗いながら、あかぎれの痛みに眉をしかめた。 あの娘がいなくなってから、否応無しに家事をしなければならなくなった。 初めはろくにやり方もわからず、面倒だと泣き言ばかりだったけれど、今ではある程度卒なくこなせるまでになった。 「……幸せになんなさいよ、シンデレラ」 義理にも、この私の妹ですもの。 幸せにならなきゃ、許さないんだから。
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「……それにしても、お母様はまだ恨んでるみたいねえ。金と権力を同時に手に入れるチャンスを、事もあろうにあのシンデレラに邪魔されたのが、よっぽど屈辱だったのかしら……」 正直私は、あの子をそこまで嫌ってなかったと思う。 ただあの時は、お母様ともう一人の妹の…… その場のノリみたいな感じで虐めてたし。 それはそれで我ながら何とも…… 「あ〜あ、何してんのよ。あたし……」
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シンデレラを思い出す。 とても愛らしいコだった。 お母さんも、それが気に食わなかったんだろう。わざと汚したりしていたし。 今思うと随分ひどい事をしたもんだ。 しかしシンデレラはいつも笑顔を絶やさなかった。 本当に、よく出来たコだった。 あたしとは、正反対だ。 こんなあたしに王子なんて、くるはずがないんだ。 都合の良い妄想なんて悲しいだけだ。 けど、けどいつか、と期待する。
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「あなたもようやく素直な気持ちを持ち始めたようね」 気づくといつの間にか魔女の格好をしたおばあさんが立っていた。 「誰?」 「見てわかるでしょ?私は魔女。今のあなたの願いなら、叶えてあげてもいいわ」 そう言って魔女が手に持った杖を一振りすると、
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あたしがいた。 いや、あたしがいた、と言うよりはあたしが映った映像が流れた、だろうか。 そのあたしはとても幸せそうでみんなと、誰か知らない男の人と笑ってる。周りの様子は、はっきりいって貧乏。こんな生活ありえないわ。 魔女はもうひとつ、映像をながした。 そこにいたのはあたしと何処かの国の王子様。とっても裕福な暮らしだけど、シンデレラも、妹も、お母様もいない。
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映像が終わると魔女が言った。選択を迫るわけでもなく、ただただ温かい声で。 「あなたはどちらを選ぶ?どちらの幸せを手に入れたい?」 幸せ?あれが?私にはどう見たって悲しい貧乏人と、悲しいお金持ちにしか見えない。そりゃあ金持ちは良いわよ、こんな家事なんてしなくてもいいだろうし、綺麗なドレスも、あのガラスの靴だって履けるかもしれない。でも、わたしだってバカじゃない。何度も間違えるほどバカじゃないのよ。
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裕福になればもうこんな家事なんてやらなくていい。 でも、それが本当に本当の幸せと言えるのか。 私はどうなりたいんだろう…。 「幸せにはなりたいと思うわ。だけど、なにが本当の幸せかわからない。」 私が言うと、魔女はにっこり微笑んで言った。 「あなたが幸せだと感じれば、どんな些細なことでも幸せになるのよ。」 果たして本当にそうだろうか。 「なんといってもあなたの答えはもう出ているでしょう。」
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…例え豪華な暮らしをしていても、愛する人と一緒になれても、ほんの一時凌ぎの幸せに終わる。あの事実が私を苦しめるから。 まずはしっかりと向き合いたい。 私はすぐお城に向かった。私のした事を忘れていないはずなのに、あの子は会ってくれた。 「私…あなたに酷い事をしたの。あなたを苦しめて、一人ぼっちにしてしまった。私を罰して」 シンデレラは私に駆け寄って、そっと涙を拭いてくれた。 胸の中が暖かくなった。
- 完 -