〝ーーありがとうございました。次はだるま落とし部の紹介です〟 ええ、あーあー。 みなさんこんにちは。 名前をアナグラムすると、だるま落としになるという安直な理由だけで部長に就任させられた部長の島田透(しまだとおる)です。 僕らの部はだるま落としを通して、部員各々が技を磨き、切磋琢磨し、互いを高め合える素晴らしい部活です。 興味がある方は是非一度見に来て下さい。 時間があるので部員を紹介します。
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まず、副部長の藤本翔くん。 彼は先月行っただるま落とし全国大会で、なんと一位に輝いた(といってもだるま落としは全国で本校だけなので本校だるま落とし部員四人のうちの一位というだけの話だが)凄腕のプロだるま落とし選手です。 雰囲気の良さげな少年が一歩前進する。 「こんにちは! だるま落としって、ハマると結構面白いですよ! ぜひうちの部見学に来てください!」 黄色い声が上がったのはいう間でもなかった。
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次は紅一点、綾小路桂子君。やや上がり目尻だが大きな目、肩まで伸びたストレートの髪の毛は栗色がかり、スラリと細身で上品な感じの女生徒です。 しかし、彼女実はだるま落としにかけては、幾つかの秘技を操る強者です。彼女のだるま落としはポイントの獲得にとらわれず、見るものを魅了する、まさにだるま落としアーティストなのです。 「だるま落としはアートです。是非一度私の秘技 だるま3段返し を見学に来て下さい。」
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次は1年の浅井一茂君。 彼はこの小山のような体格を見ていただければわかるかと思いますが、柔道を10年以上やっておりまして性格も豪快そのものです。 しかしそんな彼がだるまと対面するときこの世の全ては動きを止める。そう、繊細にハンマーを操る姿はまさに柔と剛なのです。 「俺たちとだるま落とし道極めませんかっ!よろしくお願いしますっ!」
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これで、部員はすべて出揃った。 4名の部員によって、だるま落とし部のアットホームなイメージが築かれていた。 紹介する話の落としどころをうまくとらえ、順々にバトンを渡していく。 この連携プレイもだるま落とし部だからこそ養うことのできた力だと言えた。 「俺を忘れるんじゃない」 担任の鷲谷誠が言った。 そして、鷲谷先生はとんでもないことを言い出したのだ。 心なし、だるまが崩れるような音がした。
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「時は二十一世紀!技術は飛躍的に進歩し、世界は小さくなり、人々はよりグローバルな視点を持つことを求められるこの現代社会において!だるま落としなどという古典的遊戯に執着するなどちゃんちゃらおかしい! よってだるま落とし部は廃部とし、鷲谷誠はジェンガ部の創立を宣言する!」 まさかのだるま落とし部顧問による謀反。学校創設以来前代未聞の部活紹介に会場はどよめきに包まれた。
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「何を、何を言っているのですか?私たちと先生は皆でだるまを落としあった仲ではありませんか!」 紅一点、綾小路桂子君は立ち上がり叫んだ。 「そうだ!あんな四角い積み木を只々積み上げていく行為に何の意味があるんだ!」 浅井一茂君も顔を真っ赤にして先生に噛み付いた。 しかし、そんな部員達と対照的に先生は静かにこう言った。 「では、君たちはそのだるまを落とすことに何の意味があるのか答えられるのかい?」
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「そ、それは、、、」 一同は揃って口ごもった。 だるまおとし、、、だるまを落とす。ただその行為を表す言葉である、何のメリットがあるかなどすぐに思いつくはずもなかった。 お金が稼げるわけでもなければ、就活に役立つような実績が残せるスポーツですらない。 「何の意味もないじゃないか! だるま落としなんて!!」 裏切り者の顧問は、追い打ちをかけた。 「ジェンガには何の意味があるんだよ!」部長だった
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その場の空気がまるで南極大陸に飛ばされたかのように凍った。 何の意味があるのか。 そんなことを言ったら一巻の終わりである。 結局、だるま落とし部もジェンガ部も廃部になった。 * * * だるまと掛けて、この結果を聞いた部員と顧問の肩と解く! その心は? どちらも落としたでしょう。
- 完 -