此処は蜘蛛の巣

眠たい顔を擦る、 気怠い身体をとき解す珈琲の香り。 …どうりで隣りが広いわけだ… 花柄のベッドカバー 穂のかな薔薇の芳香剤 1Rの部屋 一枚扉の向こうに彼女の姿が映る、 どうしようもない安心感と罪悪感。 …なんで出会ったんだ… ガチャ。 …おはよう、起きた?… …初めてのお泊りだね… 笑顔な声に、苦笑い。 …よく、眠れた… …よかった、私も…だよっ…

ygk7

13年前

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彼女は僕に珈琲を差し出した。 ゆっくりしていってね。 、ニッコリ微笑んだ。そして彼女は化粧をし、髪の毛をとかし、スーツを着こなした。 あっ、今日は彼とデートだから鍵はいつもの所に置いといてくれたらいいから。 サバサバし口調で僕に話しかける。 僕は返事をせず黙っていた。 彼女は僕より年上で商社で営業をしているらしい…。 昨夜の可愛い女性が、仕事モードに変化していっている。

13年前

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じゃ、行ってくる。 またね! と明るい声で言うと出掛けていった。 俺と彼女はなんで出会ったんだろ? 彼女は彼氏が居るというのになんで俺と寝たんだ?昨日出会ったばかりでお互いに何も知らないのになんで・・・・・ 考えても答が出ない。 服を着て出ようと思ったら、部屋の中に俺の服が無かった。何処を探してもない!? どう言う事だ??

errorcat

13年前

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財布はあった。運転免許、カード類すべて無事だ。しかし服が無い。パンツも無いのだ。 誰もいないのだが、やはり他人の家で全裸のままウロウロするのは大変不安である。少し前かがみになって申し訳なさそうにアチコチ探し回る。洗濯してくれてるのかな。洗濯機及び乾燥機を開けるが、無い。物干しにも無い。押入れ、クローゼット、タンス、ベッドの下、便所、ゴミ箱、下駄箱、グリル、換気扇、テレビ台、オーブン。どこにも無い。

Tetsu

13年前

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これでは家の中に缶詰にされたということに他ならない。 一刻も早く彼女の家を立ち去らなくては、余計な修羅場を迎えることになりかねない。 金はある。しかし、買いにいくための格好がない。なんともちぐはぐな話になった。 Amazonに注文するか? それでは遅すぎる。 友人に電話をして助けてもらうよりない。 電話、電話...! 電話もないだと!!

aoto

12年前

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…これからどうしようか? 服が無いんじゃ何にもできない。 もし、電話ができれば… 友人の中居と香取に連絡出来たのに… いや、来てもらった処で何にもできない! どうしよう。少し整理しないと… … 彼女を待った方がいいか? でも何されるかわかんないし… … …ん?アイツ、彼氏つってたよな? もしかしたら、メンズの服があるかも‼ よし、家中探すぞ‼ 帰ってくる前にこの家から脱出してやる‼

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食器棚には二人分の食器があったし、歯ブラシも二つあるのだから絶対にある。 よし、と妙な使命に燃えて、前も隠さずに拳を突き上げた。すると拳の向こう側に、取っ手が見えた。 成る程、屋根裏部屋があるらしい。 ダイニングから椅子を持ってきて階段を下ろす。埃が舞わないところを見ると、出入りがあるらしい。 見上げると明かり取りの窓が見えた。年単位で掃除をしていないようで春霞のように濁っていた。

sir-spring

12年前

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階段を登り、中をぐるりと見渡してみる。奥に大きな洋服箪笥があるのを見つけた。もしかして、と思い、屋根裏に入る。 一番手前の箪笥の扉に手をかけるが、なかなか開かない。渾身の力で引っ張ると、 ばたん と音を立てて箪笥が開いた。しかし入っていたのは服では無かった。 「ただいま。こんなところにいちゃ駄目じゃない」 目の前には、首のない死体。背後には、デートしていた彼氏……と思われる、生首を抱えた彼女。

lalalacco

11年前

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屋根裏は冷房が効き過ぎている。死体が腐らないため? 「綺麗な身体でしょう?頭はどうでもよかったんだけど置き去りにするのは可哀想だから」 生首は美しく化粧されている。 彼女は生首を箪笥の中に置くと、筋肉質の身体を撫で始める。愛おしそうに冷たくなった男を愛撫するその目は狂気に満ちている。 「あなたは逃げないよね?」 僕は彼女の作った蜘蛛の糸から逃れられない。いつかコレクションにされるのだろう。

11年前

- 完 -