はっけよいのこった!

「C組の加藤君ってさ、関取ぽくね」 「だよね!あのデブさは相撲レスラー⁈」 バカ笑いが教室に響く。 私はイラっとし、つい、 「関取ってのは、簡単になれるもんじゃないもん!十両になるのだって実は大変な…」と、言い掛け、場違いなのを感じて教室を後にした。 廊下を加藤君が体重を感じさせない摺り足で横切って行った。 彼は横綱に成れる! 一年の時から私は確信している。 そう、私は、隠れ大相撲JKなのだ。

真月乃

13年前

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この高校に入った理由も相撲部があるからだった。 高校の部活届にはもちろん、 相撲部マネージャー と書いた。 これだけ好きになったのはおじいちゃんのお陰だろう。 ある日おじいちゃんは国技館まで相撲を見せに連れて行ってくれた。 そこで私は大相撲に魅了されてしまった。 逞しい大きな肉体のぶつかり合い…力士達の真剣な眼差し…観客の高揚感… イイッ! いいよ!相撲! そこから相撲LOVE真っしぐら。

13年前

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今も忘れられないのがその時の関乃山と登龍門の大一番。五分にも及ぶ勝負は引き分け、取り直しとなった。 あれを生で見せられてしまえば、どんな人も相撲好きにならざるを得ない。 凄まじい意地のぶつかり合い。たくましい下肢が大地に根を張るが如き安定感。 そんな安定感が、加藤くんにもある。今の関東高校相撲のホープ、針乃山にだって勝てるはずだ。 しかし彼は最近めっきり練習に顔を見せなくなった。一体どうして?

森野

13年前

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我に返った私は加藤君を追い掛けて捕まえた。 「ごめんなさい!」 何か言われるのを待たず即謝罪とは。この気弱な性格を改善せねば、勝負の世界で大成できまい。が、今はそれ以前の問題だ。 「なんで練習にこないの?」 「それは、そのぉ…」 言葉を濁す彼の耳が、みるみる赤くなっていく。 「みんな僕のこと笑ってただろ。相撲、格好悪いから」 先ほどの話を聞かれていたらしい。 「僕だって…人並みにモテたいんだ…」

hayayacco

11年前

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彼は高校生活に何処にでもあるような甘酸っぱい青春を求めていた。僕もモテたいとは... 「な、何言ってんの?相撲だってモテるわよ。自転車を担ぐ関取もいるし、人を手にぶら下げてブランコする関取だっているし」 「もういいよ。そっちの持てるじゃないし」 ま、まずい。私の冗談が彼にうっちゃられた。彼が土俵を降りると言ってるのに土俵際にいるのは私の方。このままでは相撲界の宝が... 「す・も・う・と・り」

KeiSee.

11年前

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加藤君は一瞬可哀想な目で私を見るとすぐに下を向いた。 「それに僕…相撲より女子バレーの虜なんだ…。短いズボンからのぞく程よく筋肉のついた足…アタックを打つ時にユニフォームからチラチラ見えるお腹…ボールを落とすまいと燃える女子達…決めた時のあの笑顔…。最高だよ」 そう言う加藤君は顔を真っ赤にしてデレデレに…て 「あんたただの変態じゃない!」 「へ…変態⁉︎違うよ!君が相撲好きなのと一緒だろ⁉︎」

moti

11年前

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「違うわよ!私が相撲を好きな理由は…」 そこまで言って言葉に詰まる。似ている。加藤君がバレーを好きな理由と似ている。 もし力士が半袖を着て、ジャージを履いていたら、私は相撲を好きになっただろうか。 答えはNOに決まってる。 そう思うと、急に私の体は熱くなった。多分今は、顏が真っ赤だろう。 加藤君がそんな私の前でおろおろしだした。 女の子なれしてない証拠ね。 私が一つ‘稽古’をしてあげよう。

Rin

11年前

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目を潤ませて加藤君に迫る。相撲の極意は、引かば押せ、押さば押せ。これくらいであたふたしているようでは、モテ男への道は遠い。 「私が相撲を好きな理由は、一生懸命頑張ってる力士が格好いいと思うからだよ。今の加藤君から相撲を取ったら何が残るっていうの?そんなの、ただのデブじゃん!」 加藤君の顔が更に真っ赤になった。しまった、最後のはちょっと言い過ぎたかな。 まあいいや、本当のことだし。さあ、どう来る?

lalalacco

11年前

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何を思ったのか加藤君は上半身裸になると、私を担いで走りだした。 グランドを突っ切り、裏山の坂道をノンストップで駆け上がって行く。 頂上に着くと彼は私を降ろして言った。 「付き合ってください」 膝に手を置き荒い息の加藤君の裸は桜色に染まって綺麗だった。 力士たちは、桃色の若い巨人で、シクスティン礼拝堂の天井画から…… 不意にコクトーの一節が口をついてでた。 どうやら寄り切られちゃったみたい。

- 完 -