ココロの中で

私はいつも通り、絵を描いていた。 休日に自室で、ぽかぽかと暖かい太陽の光を窓越しに浴びながら。 お気に入りのシャープペンシルで、色々な植物を擬人化して描いていた。 仕上げに色鉛筆で色付け、上手くいったりいかなかったり。 たまに休憩としてかすかに聞こえる小鳥の唄に耳を傾けたり、風に揺れる木々の旋律を楽しんだり。 私はそんなのどかな、週に一度の休日が好きだった。

のくな

12年前

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次は何を描こうかな。 うーん…と今まで描いてきた絵を見ながら考えていると、急に強い風が吹いてきた。 ビュウゥーーッ 「わ…っ」 風が紙を吹き飛ばす。 風はやがて、おだやかなそよ風になって消えた。 どうして?窓は開いていないはずなのに…。 「ねーねー」 え?今声が聞こえたような…。空耳かな。 「ちょっと、無視しないで〜」 また⁈声がした方を見ると、なんとそこには私が描いた絵が…立っていた。

あやぽん

12年前

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「あ、あなたは誰・・・?」「私はお花よ。」 お花!?花の割にはなんか人間っぽいけど・・・。もしかして、花の妖精か何が?「あなた、妖精なの・・・?」「いいえ、妖精でも何でもないです。私は正真正銘のお花です。」 いやいや、あなたはどっからどう見ても人間だけど・・・はっ、まさか・・・。 「あなた・・・私の描いた絵・・・?」「そうです。私はあなたによって生まれた、花の擬人化なのです。」 そんな!馬鹿な!?

12年前

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「遊びましょうよ」 お花さんは、ふわぁっとした笑顔を浮かべながら私の手を握ってきた。 「遊ぶ?」 「そう、遊ぶの。私、いつもはその場を離れられないもの。たまには遊びたいわ」 私は、ちらっと窓の外を見た。彼女が本物のお花さんなら、そこに花は咲いてないはずだから。 …咲いてない。というか、モデルとしたはずの花自体が、ない。 「信じてくれた?」 目の前のお花さんの髪は桃色だ。 モデルの花も、桃色。

ミノリ

12年前

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そして周囲にふんわり漂う甘い香り。 これでは信じないわけにはいかない。私がこくりと頷くとお花さんは嬉しそうに笑った。 「よかった」 まさに花のような笑顔。思わず見とれていると、 「じゃ、夕方まで私につきあって」 お花さんがそっと私の手をとる。私は首を傾げた。 「夕方までって?」 「日が暮れたら、元の姿に戻るの」 そうなのか。なら、時間は無駄にできない。 「わかった。何して遊ぶ?」 「あのね、

misato

11年前

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お外を散歩したい」 お花さんは言った。花というのはいつも地面に縛られて生きないといけないから、それで、そんなことを言ったのかもしれない。 「いいわよ」 私はお花さんと並んで外に出歩いた。特別行き先は決めていなかった。まるで、初めて外の世界を見た子供のように、お花さんは私の手を引いた。 川べりの土手を下りた。 そこはよく陽の当たる、水はけのいいところだった。シロツメクサがたくさん咲いている。

aoto

10年前

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「うわぁ…お花がいっぱい…」 お花さんは興味津々のようで、小さな蝶々のような球に見惚れている。 私も、懐かしい景色にほんの少しだけ心を奪われていた。 「お花、摘んで行く?」 何気無くそう尋ねてみた。 「嫌。そんなのだめ」 お花さんは答えた。少しだけ不機嫌な声で。 私が、どうしてだめなの?と聞き返すと、お花さんは子どものように無邪気な笑顔で、元気に答えた。 「お花が泣いちゃうからよ」

しとっぴ

10年前

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「お花はね、みんな手を繋いで仲良くおしゃべりしながら暮らしてるの。それなのに、お花を摘んじゃったら…」 みんな寂しくて泣いちゃうわ。 お花さんは元気に、でも少し悲しそうに呟いた。 その言葉に私ははっとした。 小さな頃から植物が大好きだった私は、よく家の花壇から花を摘み、花冠や花束を作って遊んでいた。 今では擬人化までしてしまうくらいに大好きなのに、その心の中まで考えたことはなかったのだ。

ひゆき

10年前

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「…ごめんなさい。」 気付かなかったとは言え、大好きなお花さんを傷付けてしまった。私は泣きながら謝り続けた。 すると、お花さんは急に笑顔になってこう言った。 「大丈夫。あなたはとっても優しくしてくれたもの!毎日お水を替えて綺麗にしてくれた…ありがとう!」 フワッと風が頬を撫でる。 肌寒さを感じて顔を上げると、そこには私の描いた絵が一枚。笑顔のお花さんは酷く濡れてくしゃくしゃになっていた。

- 完 -