ココロの中で

私はいつも通り、絵を描いていた。
休日に自室で、ぽかぽかと暖かい太陽の光を窓越しに浴びながら。
お気に入りのシャープペンシルで、色々な植物を擬人化して描いていた。
仕上げに色鉛筆で色付け、上手くいったりいかなかったり。

たまに休憩としてかすかに聞こえる小鳥の唄に耳を傾けたり、風に揺れる木々の旋律を楽しんだり。

私はそんなのどかな、週に一度の休日が好きだった。

のくな

- 1 -

次は何を描こうかな。
うーん…と今まで描いてきた絵を見ながら考えていると、急に強い風が吹いてきた。

ビュウゥーーッ

「わ…っ」
風が紙を吹き飛ばす。
風はやがて、おだやかなそよ風になって消えた。
どうして?窓は開いていないはずなのに…。
「ねーねー」
え?今声が聞こえたような…。空耳かな。
「ちょっと、無視しないで〜」
また⁈声がした方を見ると、なんとそこには私が描いた絵が…立っていた。

あやぽん

- 2 -

「あ、あなたは誰・・・?」「私はお花よ。」
お花!?花の割にはなんか人間っぽいけど・・・。もしかして、花の妖精か何が?「あなた、妖精なの・・・?」「いいえ、妖精でも何でもないです。私は正真正銘のお花です。」
いやいや、あなたはどっからどう見ても人間だけど・・・はっ、まさか・・・。
「あなた・・・私の描いた絵・・・?」「そうです。私はあなたによって生まれた、花の擬人化なのです。」
そんな!馬鹿な!?

- 3 -

「遊びましょうよ」
お花さんは、ふわぁっとした笑顔を浮かべながら私の手を握ってきた。
「遊ぶ?」
「そう、遊ぶの。私、いつもはその場を離れられないもの。たまには遊びたいわ」
私は、ちらっと窓の外を見た。彼女が本物のお花さんなら、そこに花は咲いてないはずだから。
…咲いてない。というか、モデルとしたはずの花自体が、ない。
「信じてくれた?」
目の前のお花さんの髪は桃色だ。
モデルの花も、桃色。

ミノリ

- 4 -

そして周囲にふんわり漂う甘い香り。

これでは信じないわけにはいかない。私がこくりと頷くとお花さんは嬉しそうに笑った。
「よかった」
まさに花のような笑顔。思わず見とれていると、
「じゃ、夕方まで私につきあって」
お花さんがそっと私の手をとる。私は首を傾げた。
「夕方までって?」
「日が暮れたら、元の姿に戻るの」

そうなのか。なら、時間は無駄にできない。
「わかった。何して遊ぶ?」
「あのね、

misato

- 5 -

お外を散歩したい」
お花さんは言った。花というのはいつも地面に縛られて生きないといけないから、それで、そんなことを言ったのかもしれない。

「いいわよ」
私はお花さんと並んで外に出歩いた。特別行き先は決めていなかった。まるで、初めて外の世界を見た子供のように、お花さんは私の手を引いた。

川べりの土手を下りた。
そこはよく陽の当たる、水はけのいいところだった。シロツメクサがたくさん咲いている。

aoto

- 6 -

「うわぁ…お花がいっぱい…」

お花さんは興味津々のようで、小さな蝶々のような球に見惚れている。

私も、懐かしい景色にほんの少しだけ心を奪われていた。

「お花、摘んで行く?」

何気無くそう尋ねてみた。

「嫌。そんなのだめ」

お花さんは答えた。少しだけ不機嫌な声で。

私が、どうしてだめなの?と聞き返すと、お花さんは子どものように無邪気な笑顔で、元気に答えた。

「お花が泣いちゃうからよ」

しとっぴ

- 7 -

「お花はね、みんな手を繋いで仲良くおしゃべりしながら暮らしてるの。それなのに、お花を摘んじゃったら…」

みんな寂しくて泣いちゃうわ。
お花さんは元気に、でも少し悲しそうに呟いた。

その言葉に私ははっとした。
小さな頃から植物が大好きだった私は、よく家の花壇から花を摘み、花冠や花束を作って遊んでいた。
今では擬人化までしてしまうくらいに大好きなのに、その心の中まで考えたことはなかったのだ。

ひゆき

- 8 -

「…ごめんなさい。」

気付かなかったとは言え、大好きなお花さんを傷付けてしまった。私は泣きながら謝り続けた。

すると、お花さんは急に笑顔になってこう言った。

「大丈夫。あなたはとっても優しくしてくれたもの!毎日お水を替えて綺麗にしてくれた…ありがとう!」

フワッと風が頬を撫でる。
肌寒さを感じて顔を上げると、そこには私の描いた絵が一枚。笑顔のお花さんは酷く濡れてくしゃくしゃになっていた。

ミステリー

- 完 -

作品情報

ココロの中で

#4511

リレー期間

2年3ヶ月