「ねぇアリスちゃんほしいものなぁい? もうすぐ18歳の誕生日でしょう? ママとパパからプレゼントあげたいの」 ママとパパと私 3人でのティータイムにそう切り出された 「ほんとに! いっぱいあるの!」 「なんだ? なんでも用意するよ」 にこにことパパが言ってくれるから 遠慮なく 「えっとね 車の免許と車、シャネルの新しいコスメでしょ。あと好きなブランドの新製品全部!」
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「なんだ、そんなのでいいのかい?」 「パパ、車の免許はいくらパパでもプレゼントできないわよ?」 「ん?あぁ、そうだったな…。アリス、免許は教習所に通わないと無理だが、代わりに車は何でも好きなものを選びなさい。」 「ほんと?!パパ、ママ、ありがとう!」 うちのパパは大手企業の社長さん。私は所謂、社長令嬢ってやつで、優しいパパとママにそれはそれは甘やかされて育ってきた。
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欲しい物はなんでも手に入った。 ぬいぐるみが欲しいと言えば部屋一杯のぬいぐるみが。 本が欲しいと言えば店ごと。 友達が欲しいと言えば私の言う事を聞いてくれる友達が。 そう。なんでも。なんでも手に入った。 だから、あるとき私はパパを困らせてやろうと「新しいママが欲しいな!」といった。 「よし!じゃあ用意してあげよう!」 私は冗談だと思っていた。 「パァァアアン!」 銃声が響くその時までは
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ママは血塗れになり、ぐったりと床に伏せていた。 パパは、銃を手にしながらにこりと微笑み、部屋の外にいた知らない女の人を中に招き入れた。 「ほらアリス、新しいママだよ〜!」 「こんにちは〜♡」 「え⁉︎な、何でこんな事するの⁉︎」 「なんだ〜、折角アリスの為に新しいママを連れて来たのに、嬉しくないのか?」 返り血を浴びたパパの顔には悪意が全く感じられず、不思議そうな顔で私を見つめていた。
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殺しされたママの死体は召し使いによってどこかへ運ばれて行く。 私は恐怖と悲しみで地面に泣き崩れた。 「なぜ泣くんだい?パパはアリスの言われた通り、新しいママを用意したのに」 パパは笑顔で私の顔を覗き込む。 「なんで...なんでパパはママを殺したの?愛し合っていなかったの?」 「もちろんパパはママを愛していたよ。でもアリスが望むのならパパは喜んでママを捨てるさ」 パパの笑顔は狂気に満ちていた。
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口の中がカラカラで喋れない。パパの笑顔がすごくすごく怖い! 「じゃ…じゃあ前のママに戻って来て欲しい…な」 それを聞いたパパは悲しいような、どこか怒ったような顔をした。 「アリス、いいかい?あまり困らせないでおくれ。パパもできないことがあるんだよ」 「だってママが…ママが!」 私のせいで死んじゃった! 「泣かないでおくれアリス。それとも何かい?パパを無力な男だと責めてるのかな?」
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「お願い、ママを生き返らせて!」 「もうパパを困らせないでくれ。新しいママと一緒にやっていこう。」 新しいママが「よろしくね」と言う‥。 新しいママに、懐かないアリス‥。 アリスは家にもあまり帰らなくなった‥。 アリスがひとり、「ママー!戻ってきて!」と涙ぐむ。 なんであんなこと言ってしまったんだろう‥。 後悔しか残らない‥。
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新しいママも、狂ったパパも、当たり前のように毎日をおくっている。 まるで私の方が異常みたいに・・・ 「アリスちゃん、どうしたの?」 何でもいうことを聞いてくれたお友達に、私はあったことを打ち明けた。 「家に帰りたくないならうちに来れば?」 お友達は笑顔でそういった。 ママが居なくなって、普通の優しさに飢えていた私は、お友達に縋って泣いた。 「でもね、」 お友達の目は笑っていなかった。
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「あなたの望みはもう叶わない。あなたの願う通りに世界は動かない。あなたにとっては辛いこと。それでもいいの」 お友達の瞳に映り込む泣きっ面の私。 その私の瞳に焼きつく、相手の真摯な眼差し。 二枚の木の葉が後ろで舞う。 茜空の下で絡み合う。 涙を拭い、立ち上がる。 お友達の目を真っ直ぐに見据え、私は頷いた。 不意に吹き抜ける風が互いの髪を攫う。 一歩、歩み寄る。 丘に伸びる二つの影が、手を取り合った。
- 完 -