まただ…… また俺はやってしまった。 もう、コレは何回目の事だろう。 何度繰り返すのだろう。 覚えているだけ指を折ってみたけど、やっぱり両手の指では足りない。 ……俺は何回同じ事を、コレを繰り返すのだろう。
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穴の空いた靴下をまた洗濯してしまったのだ。脱いだ時は気づかない。干す時になってようやく気づく。 え?その時捨てればいいって?ナンセンス。 そしたらその靴下を洗濯したことが無駄になってしまうではないか。 だから俺は一日その靴下を履き続けてから捨てたいのだ。そうすれば洗濯は無駄にならないだろう? だが、その時には穴が空いてることを忘れてしまい、靴下は洗濯物の籠に。 そして永遠ループ。
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最初は親指の先らへんに小さく穴が空いていただけだった。 しかし何度も洗濯を繰り返すうちに、親指が完全に突き出るほど広がり、その上かかとの方にまで穴が空いてきた。 さすがにこれは捨てないとみすぼらしいと思うのだが、一度洗濯をしたものを捨てるのは悔しい。 「あはは、今日もうっかり洗濯しやがってざまぁ。」 うっせえ靴下め。 負けるもんか。 見てろよ靴下。 今日こそお前を洗濯せずに捨ててやるからな!
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俺は一日中穴のあいた靴下のことを考えながら過ごした。それがどれほど恥ずかしいことで、みっともないことなのか。デメリットを思いつくだけ書き連ね、穴のあいた靴下の存在そのものを呪った。片時も忘れてはなるまい。 半日中穴のあいた靴下のことを考えている内に、俺はいつしかこいつに同情の念を覚えていた。靴下は自分の体に穴があくまで力を尽くしてくれたというのに、感謝するどころか憎しみを抱いた己を恥じた。
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靴下の身に穴があいてしまうのは一体なぜか。それは日々俺に履かれているからだ。 寒い日には俺の足をその温もりで優しく包み、暑い日には足が汗で臭くならぬよう、その包容力をもってして人知れず防いでくれていたと言うのに。 俺はなんて馬鹿だったんだ。 靴下がこんな姿になってしまうのは、他の誰でもない俺のせいで、俺の為に靴下が尽くしてくれたその結果だったというのに。 俺は靴下達との出会いを思い出した。
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それは、春の暖かい日だった。 何を求めるとなく、近くのデパートに寄った時のことだ。 入り口の籠に無造作に置かれた、セール品。 季節外れの少し薄い靴下達が、誰かを求めていた。 最初は哀れみだった。 その中の一番下の靴下を手に取り、そのままレジに向かった。 「何故....私を?」 君の運命を...行く末を見届けたい。 口には出さず、レジで380円を支払った。 そこから、俺と靴下の日々が始まった。
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妙に使い勝手のよい靴下で、何度も同じのを履いてしまう。他にももちろん靴下はあるのに。まして、穴が空き始めてからは、穴が空いているにも関わらず、だ。 穴なんか空くから余計気になるってこともある。今日こそこいつを捨てる、そう思うからこそ、履いてしまう。 『なぁ、これー、捨てるでー?』 「ん?」 洗濯物をたたんでくれている彼女の声に、首だけ向けると黒いものが二つプラプラと振られている。
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俺はロマンチストだ。靴下一つにもここまでロマンチックな妄想を広げられる。これは一種の才能だろう。 正直セール品の靴下を買ったのなんかただ安かったのが理由だし穴の空いた靴下に愛着もクソもない。ただ忘れていただけだ。だが、ロマンチストな俺はそんな事にすら意味を求めてしまう。 彼女の質問を聞き心の中で靴下の声が....ってまた妄想が! 結局、靴下は捨ててもらう事になった。 そしてその数日後のこと
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新しく靴下を買った。 今回もセール品だったが、履きやすく、足にフィットする感じが良かった。 あぁ、俺はまた、同じことを繰り返すのだろうか。穴が空いても、この靴下を履いているのだろうか。だが、悪くない。 俺の為に靴下は穴が空くまで、穴が空いても履かせてくれる。 俺は靴下に向けてこう言った。 『いつもありがとう』と。 「どういたしまして」と言われた気がした。
- 完 -