Aさんがきらい Bくんがにがて みんな、 みんなそう言うの。 でも、本当にそう思ってるのは言ってる人の3割で、 残り7割は、ただ便乗してるだけなんじゃない? そして私は、その残り7割が 大嫌いだ。
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言い換えれば… Aさんがきらい Bくんがにがて …と言うみんなのうち、 3割は自分の気持ちに正直に 生きている。 それの善し悪しは一先ず置い ておくとしても、彼らは明確 な立場にいる。 それで? 正直に生きられない7割が嫌 いなあなたは3割の正直者? それとも──
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「もうよそう_」パタン_ 日記に書くようなことじゃない。昨日も今日も楽しく有意義に過ごしたのに、日記を開けば、まるで別人の日記になっている。 視線を十度下に向けて、しばらくボーっとしていた。不意に、レンズの隙間から何か光って見える。 ? 指輪…のおもちゃだった。 瞬時に蘇る記憶に、思わずニヤけてしまう。 そういえば、あの時もアザだらけの顔して言ってたかも…。 フッと日記をさかのぼった。
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「ほんとあいつマジ暗いよね。私ああいう協調性のない人嫌なんだけど。」 「ねー。こっちが気を遣って話しかけても『はい』しか言わないしさー。」 「そうそう!全然会話続かない。しかもあいつ急に泣き出したんだよ。」 「えっうそ泣いたのー?!」 「うわ最悪。泣くとかマジありえんわ。」 「なんか私達がいじめてるみたいじゃん感じ悪いー。」 お昼休み。悪口を言われているのはKさん。 この指輪は彼女からもらった。
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Kさんとは、同じクラス。おっとりしているが、根は良い子だ。 「え、何何。Kさんの話?あの子さー、親が家出てったらしいよ」 「えっ、じゃあ今誰と暮らしてんの?」 「さあ、知らない」 「だからあんな協調性無いのかな?」 … 周りの女子も会話に加わり、家の悪口まで言い始める。誰と暮らしてるか知らないということは、きっとただの噂なんだろう。 …ムカつく。そういう人間が大嫌いだ。 「やめなよ」
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私の口から出た言葉に女子たちが面くれる。 「なにか言った?」 リーダー格の女子が訊いてきた。今否定すれば許してやるという事だろう。 「言ったけど?聞こえなかった?」 臆することなく私が言った皮肉に、クラスがシーンとなる。 ガラっ 丁度なのか運悪くなのか…そこKさんが戻ってきた。 図らずも渦中の人となった彼女を皆が凝視し、Kさんは気まずそうに目を逸らす。 「今この子がKさんの悪口言ってたよ」
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躊躇なく私は事実を話した。 「...そうなの?」 きょとんとした顔で聞き返すKさん。リーダー格とその仲間は、ニヤニヤした顔を浮かべている。 リーダー格の女が答えた。 「違うわよ?大体、さっき悪口言ってたのは、この子なんだから」 そう言って私の方に視線を移す。この子、とはやはり私のことだった。 どうやら、今度は私が標的とみなされたらしい。 「この子、本当はあなたのこと嫌いみたいよ?」
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Kさんが探るような目で私を見つめた。 突然の展開に私は動揺してしまった。 ああ、これじゃ、本当に私が彼女の悪口を言っていたみたいじゃないか。 Kさんはプイとそっぽを向いて教室を出て行った。 「みんな言ってることだし、気にしなくてもいいよ。Kさんが悪いんだから」 二枚舌が辛かった。口では敵わない。 でも、私は7割の中に入りたくはなかった。 私はKさんを追いかけた。Kさんは涼しい顔で私を見た。
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生気が感じられない瞳だった。 彼女の前では、弁明も励ましも共感も慰めも全て、滑稽に思えた。 私は、彼女にかけるに相応しい言葉を持たなかった。 私が彼女の瞳を見つめていると、 ぽろっ。 雫がこぼれ落ちる。 次から次へと。 それは俄かに、噎び泣きに変わった。 突然の出来事に、私は慌てるだけだった。 「Kさん!?ごめん…!」 彼女の唇がゆっくりと動く。 「ありが…と……」
- 完 -