また告白された。今月4人目だ。 私は困った笑みを浮かべながら、少し待って欲しいと伝える。これも毎度のこと。 家に帰ってから、私は思わず笑みが漏れた。 ーー男って単純ね。 私は素でモテているのではない。 相手に思わせぶりな態度で優しく接する。もちろん、好きなんかではないわ。 なぜ、そんなことするって? 告白されることほど気持ちのいいことってないじゃない。 私は小悪魔。小悪魔女子なの。
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ほら、また今日も一人。 私にとっては、ただの遊びなのに。 さあ、続いてのターゲットは、あいつね。優しくする価値もないような、根暗な同級生。上手く近づくことができるかしら? …あら、気が付かなかった。まさかの隣の席じゃない。ちょうどいいわ、話しかけてみましょう。 「…ねぇ」 「…………」 え、無視?
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根暗のくせに、小悪魔の私を無視? いい度胸じゃないの。 私はそいつの様子を流し目で窺う。 ……待って。ひょっとしたら単に動揺しているだけかもしれないわ。 この見かけだし、女の子に声をかけられるなんてこと滅多にないのかも。それで、どうしていいかわからないのよ。 いいわ。 なら、私が女の子との会話の仕方を教えてあげる。 それで、いい気になって告白してきたところでいつものように……よ。ふふっ
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「ねぇねぇ、本なんか読んでないで私と話そうよ」 ここでお決まりの甘〜い笑顔と。正直この笑顔で落とせなかった男はいないんだから。 「…」 あれ、ちょっと答えに悩みすぎじゃない?どんだけ鈍臭いんだこの男。 私の100点満点の笑顔が引きつり出したころ、今まで名前さえ曖昧だった根暗男がぼそっと呟いた。 「そういうのもうやめなよ。」 …は?? 突然の言葉に私はただただ固まっていた。
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根暗男は言い捨てると、スタスタと教室を出て行った。 残された私は我に返ると急いで後を追った。 「そういうのって何よ⁉︎ねぇっ!」 根暗男なくせに生意気な!私は思わず地が出てしまい、そのまま奴の肩を掴まえて振り向かせ様とした。すると、 ドンッ! 奴の腕と壁に挟まれた。 「人の…心を玩ぶ様なこと、お前には似あわねえっつってんだよ」 「ぇっ?」 な、何言ってんのよ…ってか、何?私、キュンときた?
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それから、一週間食欲が湧かないし、友達との会話も上の空。 気づけば教室ではいつもあいつのことをあたしは、目で追っていた。 これが、恋患い?認めたくけど、あたしは初めて心から好きになれそうな気がした。 でも、これからどうすればいいかあたしにはわからない。 だって、今までこんな……っ! 放課後、一人で机にうつ伏せていると屋上からヴァイオリンの演奏してる音が聞こえた。
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惰性で突っ伏したまま、耳だけ側立てる。 ……うん、小悪魔女子になるべくあらゆるお稽古事を極めた私に比べれば全然だけど、なかなか悪くないじゃない。 そのまま音色を聴いていてあげたが、 「……いまの音違う」 完璧を求める私には許せない一音。居てもたってもいられず、屋上まで駆け上る。 重い扉を押し開けた先にいたのは── 「嘘……」 ヴァイオリン奏者はあの、根暗君だった。
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「何?」 「何、じゃないわ。いつまでとぼけているの。今の音ズレてたから」 「そんなことを言いに来るために来たの?」 「そんなことって、音楽はたった一つの音も重要なんだけど。知らないの?」 「知ってるよ」 「じゃあ、さっさと直してもらえないかしら」 「僕はこの音だけが、頭の中で鳴らせないみたいなんだ。気づいたのは先生とお前だけだよ」 は? そんなこと言われても全然嬉しくないんだけれど。
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「……じゃあなんで、そんなものやってるのよ」 私がヴァイオリンを指差すと、彼はなにを当たり前なことを、とでも言いたげにさらりと答えた。 「決まってるだろ。好きだからだよ」 ──好きだからだよ。 あの日を思い出させる少し低い声で発されたその一言に、心臓がぎゅう、と掴まれたように高鳴った。 「私だったら、その音も捕まえられるわ!」 根暗な彼が首を傾げる。 「だから、私のことも……!」 も!
- 完 -