公衆電話は何故鳴り響く

目の前の公衆電話が鳴っていた。 はじめは自分のケータイからかと、鞄の中を探っていたがすぐに、その音は自分の行くてから響いていることが分かった。 私が小学生の頃は、大体の子がテレホンカードを親から持たされていたのに。 いつからだったろう、公衆電話が自分の生活から遠くかけ離れていったのは。 プルルル、プルルル… ゆっくり、後ろを振り返り、またゆっくり、左右を確認する。誰もいない。

12年前

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意を決して電話ボックスの中に入ったが、それと同時に電話は止まった。 肩をすくめたが、これも何かの縁と入った電話ボックスを隅々まで見る。 「あれ?」 テレホンカードが落ちていた。絵柄は昔流行っていたアニメのキャラクター。小学生の頃、私が持たされていたのと一緒。 そういえばあのテレカどうしたっけ。

Piano

11年前

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それを何気無く拾い上げた途端、再び電話から呼び出し音が鳴った。 私は少し迷ったが、恐る恐る受話器を取る。 「もしもし…?」 「あっ、美緒ちゃん? よかったつながった〜」 美緒とは私の名前だ。少し幼い少女の声の持ち主は、私を知っている? 「あの、あなた、誰?」 「沙織だよ! 久しぶりだね〜」 その名前は、小学生以来疎遠になった友人のものだった。偶然同じデザインのテレカを持っててたから、仲良くなって。

流され屋

11年前

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「そこにテレカがあるでしょ。それ、私のなんだ。探してたんだけど」 と沙織は一方的に話を進めていく。 「それでね、美緒ちゃん。私、今からそこに行くから待ってて欲しいんだよね」 「どうしてこの電話に?」 その質問の途中で電話は切れた。通話の終了の音に雑音が混ざっている。 私はケータイを取り出し、沙織の事を知る昔の友人に電話した。 「知らないの? 沙織は、中学の時公衆電話で殺されたんだよ」

11年前

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「可哀想よね、沙織。 まだ、犯人も捕まってないのよ。」 頭が追いつかない。 えっ…。どういうことだろう。 「そういえば、今日沙織の命日だったわね。 あっ、もう時間だ。じゃあね。」 友人は一方的にしゃべり、私の頭を混乱させ電話を切った。 沙織は死んだ。 でも、電話が来た。 いたずらだろうか?でも、胸騒ぎがする。 私は電話ボックスの中で動けずにいた。

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かた、と嫌な音がする。いや気のせいなのかも。そんな事どうでもいい。とにかく体が自然に動いていた。 ごめん、ごめんね沙織。今どうしようもなく怖くなったの。嘘だとわかったらまた連絡するから。そう言い訳して電話ボックスを跳ねる様に飛び出していた。 そこから先はよく覚えていない。 気がついたら家に居て沙織と友達の言葉を交互に考えていた。ポケットの中にはまだテレカが入っていて気持ち悪くて机の上に置いた。

annon

11年前

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そして数日経ったが何も起こらず、私もあの日のことは考えないように普段通りの生活を送っていた。 あの公衆電話がある道を避けるようにすること以外は。 沙織のテレカはいつの間にか無くなっていた。机の上から持ち出していないはずだったが、無くなったことで私は何故か安堵していた。 「それで、一昨日の5時なんだけど…」 思考がまだ追いつかない。この人は誰?警察? 机の上にはビニール袋に入った沙織のテレカ。

nanome

11年前

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「その時間、美緒さんはどちらに?」 「え、家にいましたけど……何かあったんですか」 「近所の公衆電話でちょっとした事件がありまして。現場にカードが2枚、落ちてたんですがね」 刑事は手袋をはめた手で袋からテレカを取り出した。重なっていて分からなかったが、確かに2枚ある。 「ここにほら、名前が書いてある」 2枚のテレカのそれぞれに、さおり、みお、と幼い文字で書かれていた。 「お心当たりは?」

hayayacco

11年前

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拘置所の中は薄暗い。 一昨日の夕方、あの公衆電話で1人の男が殺された。その後の調べで、男は数年前の公衆電話で女子中学生が殺された事件に関与している疑いが濃いと判明した、らしい。沙織の事件に違いない。 沙織が自分を殺した男に復讐を遂げたのだ。そして現場に2枚のカードを残した。 「沙織は私に犯人を探して欲しかったのかな…」 これは罰だ、と思った。親友から逃げ出した罪を、私は贖わねばならない。

11年前

- 完 -