正直者の末路

「あなたが落としたのは、この金の斧ですか?それとも、銀の斧ですか?」 この有名なセリフを知らない人はあまりいないだろう なぜこんなことを言うのかは簡単だ 「あなたが落としたのは…」 「………。」 目の前でそれが起こっているからだ しかし、落としたのは先程のとは違い斧ではない… 俺が早起きして作った弁当だ…! あれがないと空腹で倒れてしまう……!

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「あなたが落としたのは、この金鯛の弁当ですか? それとも銀鮭の弁当ですか?」 泉の精霊は問いかける。 めっちゃ美味しそうな弁当が二つ……! 金鯛は煮付けで、ぷりぷりと脂がのってて。 銀鮭は塩焼きで、ほくほくと湯気が見える。

すくな

10年前

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正直甲乙つけ難い。 どちらを選んでも満足出来るし、何よりもう自分の弁当なんて食べたいとも思わない。 ってか両方欲しい! ふと昔子供の頃に聞かされたイソップ童話を思い出した。 たしか…正直物の木こりが得する話だった気がする。 と言うことは正直に答えれば金銀弁当貰えて自分の弁当まで帰ってくる! これこそ美味しい選択! 「私の弁当は何方でも御座いません」 正直に答えた。

山崎信行

10年前

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いや、でももう一押し!「いや、でも鯛と鮭どっちかで言うと、同じくらい好きですね。それに、僕は朝ご飯食べてない上に空腹のまま仕事して熱い飯を今すぐ食べたい状況で」 これは、心の中の声だ。そう、僕は、強欲なのだ。だが、それは口に出さない。 「僕は自分の作ったご飯だけ食べられたらそれでいい。それが無いと昼からの仕事が辛いんだ。」

hahuhahu

10年前

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「まあ…あなたはなんと無欲なのでしょう!」 泉の精霊は驚き、微笑む。 それを見た僕は、内心とは裏腹に「いえ、当然ですよ」といった爽やかな笑みを浮かべる。 「では、そんなあなたには……」 来た……! 僕はにやりとほくそ笑む。 さあ、待ちに待った三つの弁当と御対面だ!! 「あなた自身のお弁当と、」 おお……!! 「——この黄金の箸を差し上げましょう。」

夏うさぎ

10年前

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え……!? 泉の精霊はにっこりした。 「純金100%の観賞用の箸です。くれぐれも、実際に使わないようにしてくださいね。純金は柔らかいですから」 なんだ、この展開…!? しかし、僕は動揺を見せたりなんかしない。満面の笑みを浮かべて弁当と黄金の箸を受け取った。 純金は売り飛ばせば高く売れるからな。 って、濡れてる! 僕の弁当は泉に浸かったせいで、びしょびしょに濡れていた。 こんなの食えるか!

kam

9年前

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このままでは、空腹で倒れてしまうだろう。 「まだ、何か?」 泉の精霊の視線が痛い。 「あっ、あの」 そう、正直に、正直に。無欲に、無欲に。 「お弁当が濡れてしまって食べられないんです」 「そうですね」 僕は純金の箸を握りしめたくなる気持ちをぐっとこらえ、言葉を探した。 ……先に口を開いたのは、精霊だった。 「では、一緒にご飯を食べに行きますか?」 「えっ……?」 精霊の頬は仄かに赤かった。

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僕は素早く精霊を、精霊の容姿を確認した。先ほどまで彼女の両の手のひらに浮かぶ弁当二つにしか目がいかなかったのだ。 綺麗だ。美人と言っても何の問題も無い。胸は豊満で、腰はきゅっと細い。大きな瞳に揺れるきらめきは僕の心をとくんと鳴らす。 ──肌が透き通る泉のブルーでさえなかったら!! 僕は残念ながら異種恋愛には興味が無い。だが、ここで僕の腹が悲鳴を上げた。それに、精霊の食べる物……ぐううぅ

Ringa

9年前

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音を聞いて精霊がくすくす笑った。 「実は知り合いに水の中で暮らすお姫様がいるのです。彼女に頼めば、海の幸のご馳走が頂けるでしょう」 「でも水の中じゃ息が…」 「大丈夫です!息はできるんですよ」 精霊につられ湖に入ると、なるほど確かに息ができる!さすがは何でもありの童話世界…。 「で、あのー、そのお姫様って?」 「乙姫様ですよ。ゆっくりしていきましょ」 微笑む精霊に、正直者で良かったと僕は笑った。

いのり

9年前

- 完 -