「ねぇ、心霊スポット行こうよ!」 オカルト好きな彼女が 目を輝かせて言った。 「…ほら、課題終わらすよ」 「スルーしないでよー!」 「遊び半分で行っちゃダメなんだってー。そうゆうの。大学生にもなればわかるだろ?」 「わかるけどぉ。ホラー映画は見尽くしたし暇なんだもん!霊感もないし!ね?お願い!祥平~車だしてよ~」 この時、俺は無理にでも 止めれば良かったんだ。
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車を走らせること30分。 旧国道は対向車の一台もなく、ヘッドライトの範囲以外は闇でしかない。 「着いたぞ」 そこは、地元では割と有名な心霊スポット。 ツルハシの跡も生々しい、小さな隧道だ。 「うひょー雰囲気あるねぇ」 彼女の声が反響し、隧道に吸い込まれて消えていく。 「ねえ、祥平。行こ?」 ちょっと首を傾げる仕草が…ちくしょう可愛い。逆らえない俺は、差し出された彼女の手を取った。
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車から降りて、三歩。足が重たくなった。 「なんか、足が、重くないか?」 「何言ってるの?祥平恐くなったの?やだなあ、ほらほら、行くよ」 彼女に引っ張られ、ずるずると足を引きずるように進む。 やばい。おかしいな、俺、霊感なんてないはずなんだけど。でもなんなやばい。虫の知らせ?わかんねー、鳥肌たってきたし。 でも、彼女は意気揚々と俺の手を引っ張って行く。 無理にでもここで帰ればよかったんだ…。
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「うわ、なにこれ」 ふと彼女が下を見た。そこにはいつ置かれたのかも分からない、枯れてほぼ原型を留めていない花束があった。ここで人が死んだらしい。 「戻ったほうがいいって」 俺の忠告には耳も貸さず、また彼女は歩き出す。歩を進める毎に俺の足はどんどん重くなっていく。 「なあ、もう戻ろう」 しかし彼女は答えない。さっきまであんなにはしゃいでいた彼女が。 彼女の様子が明らかにおかしくなっていた。
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彼女は俺の言葉に見向きもせず、ただ何かに取り憑かれたかのように歩を進めて行く。 もうずいぶんと歩いた。 「なあ、もう帰ろう。これ以上は危ないよ。」 俺は必死で彼女を止めようとした。 言うことを聞かず彼女は進んで行く。 「もうついて行けねぇ、先戻ってるわ。」 そう言って、車に戻ることにした。 のだが、
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車のところに戻ってみたら助手席に誰か座っているじゃないか。 慌てて走り寄ったらそれはさっきまで一緒に居たはずの彼女だ。 なんだかんだいって怖くて戻って来たのだろうか それにしても一体いつの間に俺よりはやく辿り着いたのだろ。 確かに彼女は先に進んでいったよな。 俺は疑問を胸に運転席のドアを開けた。
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ほんの出来心だったの。 「着いたぞ」 隧道に着いたらとても嫌な気持ちになって、すぐに帰らなきゃって思った。 思ったのに。 『祥平』 呼んだ言葉は音にならなくて、いつの間にか外へ出た祥平の隣に私がいたの。 叫んでも届かなくて、祥平は向こうの私と行ってしまった。 もうだめ。いつの間にか体も動かない。 ヒタリ、 私の目に見えたのは… 「い、いやぁぁアアアア!!!!」 私は、死んでしまった。
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幾つも見えた人の顔らしきモノはどれも、燃えるように歪んでいた。纏わり憑かれて私は──引き剥がされ…た? 分からない。でもそうとしか考えられない。 私の体はずっと助手席にある。なのに、祥平は私…に見えるモノと隧道へ歩いて入った。 祥平が車に戻ると、私の体は言った。 「待 っ て た よ」 私は離れてここにいるのに、祥平の隣に座る体が勝手に。 車が走り出す。 ──ダメ! 祥平…祥平…!!
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「…なぁ、あれから何年経ったっけ?」 紅茶の入ったカップを片手に祥平が私に話しかけた。 「あれって?」 「ほら、あのトンネルの」 「ああ、あれね…。忘れちゃった。だいぶ昔の事だし」 「そっか…」 そう言うと祥平は、カップの紅茶に口を付けた。 「なぁ、俺たち幸せだよな?」 「どうしたの?いいじゃん。二人で過ごせてるんだから」 あの日を境にあの世暮らしだけど…。 私たち、これでもいいよね。
- 完 -