銀河が紡ぐ恋の詩

暑苦しい締め切った放送室。座ってるだけで汗が出る。放送委員である僕は、体育館二階の放送室にいて、校長の挨拶を聞いていた。 新学期なんてきて欲しくなかった。新しい、始まりだ。学生の青春とやらの一ページ。だけど僕には、そんな希望なんてものはなく、ただただ憂鬱だった。 つまらない、つまらない、つまらない。 なんで居なくなっちゃったの、中村さん。

tempio

13年前

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中村舞花が居なくなったのは、世界にとって大きな損失だと思う。 教室に戻って空席を見るだけで気持ちが沈む。 舞花は入学以来の親友で同じ放送委員だった。明るくて優しくてシーダーシップのある舞花は誰にでも好かれた。 舞花の失踪は六月下旬。私達は半分魂魄が抜けたまま夏休みに入った。今日朝礼担当だった後輩は舞花に惚れてたから特に重症だ。 どこいっちゃったのかな、舞花。 お星様になってなきゃいいけど。

Iku

13年前

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気が付いたら放課後になっていた。しまった、また放送室まで来てしまっていた。 中村さんがいなくなってからというもの、何故だかふらりと訪れてしまう。 このまま帰るのもなんだから、がちゃりと戸を開け入ってみる。 中村さんがいた。 「あ、塩崎くんだ!」 「え、中村さん?」 まるで夜空の一部でも切り取ったかのような星空柄のワンピースを着て、彼女は嬉しそうに僕に向かって笑いかけた。

kako

13年前

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「あの、久しぶりですね」 「久しぶり」 中村さんは、楽しそうにしている。思わず僕もにこにこ、中村さんか、久しぶりだなぁ。僕はふっと我にかえる。 「今まで一体どこ行ってたんですか‼ 本当に心配してたんですよ。僕なんて用もないのに毎日放送室に来て、それで」 僕は自分が何を言っているのか全然分からなくなった。 「落ち着いて、ちゃんと順を追って話すから」 中村さんは少し悲しそうな表情をした。

syouberuto

13年前

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昨日、私宛に手紙が入ってた。 差出人は、失踪中の舞花。 切手はなく、住所もないため、直接ポストに入れられたんだろう。 そして私は、舞花が消えた理由を知る。 彼女が世界規模のプロジェクトの、若き宇宙飛行士になったこと。 重要機密も含むため、居場所は伏せられること。 星になったのではなく、星に行っちゃうんだね。 せめて後輩の塩崎君には声かけてあげて、と舞花にメールしてみた。 ちゃんと届いたかな…?

12年前

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「わたし、星に行くんだぁ」 ──だから、ね。さよならなの。 ほんの少し寂しげに微笑んで、中村さんは呟いた。 思わず僕は彼女が着ている星空の模様のワンピースを見遣り、この人はこんなところに行ってしまうのか、とぼんやり思った。ずいぶん遠い処へ。僕を置いて。 世界レベルのプロジェクトに選ばれたことは、とても名誉なことなんだろう。祝福すべきなんだろう。 でも僕は、そんなの、嫌だよ。中村さん。

かおりこ

12年前

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「頑張って下さいね」 痛む胸をひた隠しにしながら、ガッツポーズをしてみせた。本音ではない。アクシデントで早く帰ってきたらいいとまで思う。 でも、そんな姿、中村さんにだけは絶対に見せられないから。 だって、中村さんの、星にまで行っちゃうカリスマ的な明るさを僕は見ていたいのだから。 そんな僕の心境お構いなしで、中村さんは陽気に、 「塩崎君からエールもらえると、いいことありそうだよ」 と僕の手を握った。

aoto

12年前

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中村さんの乗る人類初の恒星船は光速の約50%で宇宙を進み、地球から4.4光年離れたアルファケンタウリを目指す。航海が順調にいったとしても、調査を終えて帰るのは20年後だという。途方もない時間。 「私が地球に帰ってくる日、必ず迎えに来てね。でも塩崎君は私のことすぐわかるけど、たぶん私は塩崎君のことわからないから、これを振って」 そう言って、僕の手にワンピースと同じ星空の模様のハンカチを握らせた。

saøto

12年前

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その二十年後… 中村さんは無事調査を終えてこの地球に還ってきた。世界的に報道された。 僕はあの日にもらった星空のハンカチを握って待っていた。が、中村さんはハンカチを出す前に 「塩崎君〜」 と気づいてくれた。 「逢いたかったよ、君に。」 2人は抱き合った。 「塩崎君、宇宙でも月は綺麗だったよ。」 「地球でも綺麗だった。手は届かなったけど。」李白じゃないけど。 二人は二十年ぶりに唇を合わせた。

skyrain26

12年前

- 完 -