いまいちさんのいまいちな日常。

いまいちさんはいまいちである。 野良いまいちさんを拾って早数週間、ストーブの前でちぢこまっている彼を見て、大きくため息をついた。 なんだよ、と言わんばかりに鈍く光る目を訝しげにこちらへ向けてくるものだから、もう一度息を吐く。 「いい加減、職でも探したらどうですか? 糞ニート」 「身分証明できないと就職できないんだよ」 怖い大人達に痛い思いをさせられて以来、外の世界が怖くて仕方ないらしい。

らぱん

12年前

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いまいちさんはいまいちである。 まったくだめ、では無いあたりがいまいちさんのいまいちさんたる所以だ。 今は野良ではないうちのいまいちさんは、外に出るのはからっきしだが、家の中のことならまあまあ出来る。炊事に洗濯、掃除もお任せだ。 実は、彼の作ったチキンライスはかなり美味しい。 「帰ったのか。夕飯出来てるぞ」 「このオムライス、たまごが破けてますけど」 それでもどこかいまいちなところが愛しい。

lalalacco

12年前

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いまいちさんはいまいちである。 彼の趣味は、天体観測だ。 拾ったときから、碌な荷物はないくせに、望遠鏡を背負っていた。 安アパートのベランダからでも、星とは意外に綺麗に見えるものだ。人の気配の絶えた深夜には、飽きずにずっと眺めている。 空には、綺麗なものしかないかららしい。 「風邪ひいた」 「3時間も、糞寒いベランダにいるからでしょう」 どんなに高尚な趣味でも、やはりどこかいまいちだ。

みかよ

12年前

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いまいちさんはいまいちである。 彼は、ゲームも嗜む。 私が実家から持ってきた古い携帯ゲーム機を、彼はいつも真剣な表情でポチポチする。 これでも昔は大会で優勝したことがあるんだ。 彼はよくそう言うが、ただの育成ゲームに大会も何もあったものではないと思う。 「あ、電池切れた!セーブしてないのに!」 「ゲームは一日一時間までってことよ」 実際わりと上手いのに、どうしてもいまいちだ。

じゃん

12年前

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そんないまいちさんが、 いまいち何処かに行ってしまった。 糞ニート呼ばわりされた時は、ちょっと (いや、かなり)ムッと来たものだが、 そんないまいちさんが居ない日々を 果たして想像出来ただろうか? チキンライスの話も、 天体観測も、 ゲームの話も……それから、 まだまだ話し足りない事は山ほど……ある。 いまいち、何処だーーーーーーーー! 一人の夜がこんなに寂しいとは。

響 次郎

12年前

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いまいちさんが去って早数週間、私は今日もため息をつく。 もともと望遠鏡くらいしか持っていなかったから、いなくなってしまえば何も残らない。彼を拾う前の生活に戻っただけのこと。 と、言えなくもないのだが。 電池の切れたゲーム機や、綺麗に整理された食器棚、ベランダに敷かれた座布団代わりのダンボールは、いまいちさんの名残りをとどめる。 去り際もいまいちないまいちさんに、また会えるだろうか。

hayayacco

12年前

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いまいちさんを探してみることにした。今までの生活に戻っただけのはずなのに、いまいちしっくりこない。 「いまいちさーん」 呼びながら、外がとても寒いことに気がつく。 外の世界を怖がって、家で料理やゲームばかりしていたいまいちさん。くそ寒い中星を眺めてくしゃみをしていたいまいちさん。 「外に出られないんじゃなかったの」 独り言を呟いて必死で走る私の姿も、やっぱりどこかいまいちだ。

miz.

12年前

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散々探しまわって、漸くいまいちさんを見つけた。まるで酔っ払いみたいに、自動販売機と自動販売機の間に蹲っていた。 いまいちを絵に描いたような姿を見ながら、ほっとする私。 「いまいちさん」 「……」 いまいちさんは答えない。手を掴んで引っ張り出そうとしたら、いまいちさんの身体はとても熱かった。 慌てて病院へ連れて行った。 「肺炎ですね。今夜が山です」 医者まで、いまいちなことをいう。

misato

12年前

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病院のベッドに寝ているいまいちさん。熱と咳が止まらなくてとても辛そう。 そっといまいちさんの手をとり、助かりますようにと祈る。時間が過ぎ、外が段々明るくなっていく。 その間に思い出すのはこれまでの日々で。 勝手に目から涙。 その時 「なんで泣いてるの」 顔を上げると、弱々しく微笑むあなた。 こんな時もいまいちな質問。だけど、 「おかえりなさい!」 そんないまいちな日々が、私はとても好きだ。

haco

12年前

- 完 -