「急がなきゃ!」 ぼくは白うさぎ。今日は大好きなアリスの為に誕生日ケーキを作るんだ。「さぁ材料を探しにいこう!」そう言ってぼくは勢いよく外へ飛び出した。
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首には懐中時計をぶら下げている。 誕生日まで、残り時間はわずか。 ケーキはスポンジが命。道中に、ケーキの種類も決めていこう。 「卵と薄力粉だな」 白うさぎは鶏のいる小屋に向かいました。 「アリスのために卵わけてよ!」 白ウサギの頭の中はケーキでいっぱいです。 ショートケーキ、アイスケーキ、チョコレートケーキ・・・etc 「アリスのためならしょうがないな」 白ウサギは鶏から卵をもらいました。
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「ええと、次は薄力粉だ」 白ウサギは勢いよくけられたボールのように地面をはずみ、丘をかけあがり、風車小屋をめざしました。 「じいさん、じいさん。薄力粉を分けておくれよ」 風車の番人のタヌキじいさんは、まゆをハの字にして言います。 「昨日から風がね。吹かなくてね。小麦がね。ひけないんだね」 そういえば、いつも大きな音をたてて回っている風車の羽根はぴくりとも動いていません。 「ああ、なんてこった」
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「粉がないと、スポンジができない!」 うさぎは少し考えた結果、リリー叔母さんのことを思い出しました。 リリー叔母さんは森でも有名なお菓子作りの達人。叔母さんの作るクッキーやパイはお茶会でも大人気でした。 「リリー叔母さんなら、小麦粉をわけてくれる!それに、美味しいケーキのレシピも教えてくれるかもしれない!」 うさぎは急いでリリー叔母さんの住む川沿いの家へ走り出しました。
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「リリー叔母さんなら、女王陛下に首を刎ねられたぜ」 叔母さんの家の塀の上からハンプティダンプティがムッとしながら言いました。 うさぎはショックの余りその壁にガーン!と頭を打ち付けました。 「うわ!」 反動でハンプティダンプティは壁から落ちて割れ、中身がどろりと零れました。 こうなるともう王様でも戻せません。 「でも、卵はもう…あるよ」 うさぎは呟きました。 ハンプティダンプティは割れ損でした。
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リリー叔母さんもダメ。白うさぎは途方に暮れました。しかし、アリスの誕生日パーティは刻一刻と迫っています。 こうなったら最後の手段だ。赤の女王の城に行って、コックに薄力粉を分けてもらうしかない! 白うさぎは意を決して、森の奥に建つ壮大な赤い城を見つめました。それだけで気が引きしまり、耳と髭がピンと張ります。 アリス待っててね。 全ては大好きなアリスの為、白うさぎは森へと向かいました。
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「城へ行っても小麦粉はもらえないよ」 目の前に突然猫の顔が現れて驚いた。いつもにやにやしているチェシャ猫だ。 「小麦は多くの料理に使われる。小麦をあげたら料理が減る。それを女王が許すと思かね?小麦を与えたコックは首を刎ねられる!」 「そんなに多くもらわないよ」 「女王には量なんて関係ないのさ」 確かに。女王は"少なくなった"ことに怒るだろう。 二つに別れた道。どっちを選ぶのが正解か…
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白うさぎがうんうんと頭を捻っていると、帽子屋がやってきた。 やあ、うさぎ。何を悩んでいるんだ。 白うさぎはいままでのことをすっかり話すと、帽子屋は帽子を被りながら、なるほとなるほどと繰り返した。 なるほど、小麦粉ならお城にあるさ。何のためかって?そりゃもちろん、ケーキのためさ。 ほら、見てごらん。ケーキはすっかり焼かれてる。誰のためかって? ここは、女王のお城だぜ?
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「だけどチェシャ猫が言っていたんだ…小麦粉を与えたコックは刎ねられるって…」 「そんな事を気にしてちゃアリスを喜ばせる事はできないぞ?いいのか?」 その言葉に白うさぎは決心した。「分かった。行ってくるよ」白うさぎは城に向かい走り出した。 ──その後どうなったかだって? それは、君達の想像にお任せしよう。 だが一つ。白うさぎの努力は無駄にはならなかったと、だけ言っておこう。夢物語これにて閉幕。
- 完 -