私は小学生の時 自殺しようとしました。 原因は父の暴力。 弟がいる私はいつも 弟の罪を被る。 学校では私は活発な子で 昼休みは男子と鬼ごっこ、 放課後は男子と野球をしてました。 だから当時の悩みは家族だけでした。 家族ということばが嫌いになる程で、 家族旅行のCMをみるだけで いらいらしました。 私はタオルで首を限界までしめました。 リビングからはテレビをみて笑う 父の声が聞こえ、よりしめました。
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目が覚めた。 ちゃんと自分の部屋だ。 「まただ…」 少女の夢を見た。 とても悲しい夢。 学校では元気でなにも問題がない子なのに、 家で父親に暴力をふるわれている。 それを見る度に、自分がその場にいたのならばその子の父親をぶん殴ってやりたいくらい俺はその夢に感化されていた。 そして、それを見る度に俺はその少女に惹かれていった。 ある昼下がり、道端で少女にそっくりな女性に出会う。
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何も証明するものはない、でも、何か関係があるかもしれない。ゆっくりと間を起きながら、尾行し始めた。 大通りから商店街へと入り、踏切を渡ったすぐの所にある白い二階建ての家にその女性は入って行った。 と、家の中から小さな男の子の悲鳴が聞こえた。しばらくの間、怒鳴り声で罵ると、ビールの缶を持って早くも千鳥足の父親らしき男が玄関から出てくるなり、不機嫌そうな顔をしながら商店街へと消えていった。
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怒りと驚愕の混ざった感情が湧き上がっていた。 紛れも無く、アイツだ。 夢の…あの少女と、男の子に暴力を振るう父親。 今すぐ追いかけてぶん殴りたくなるが、それ以上に夢の中で見た現場が存在したことに内心動揺していた。 …あの夢は、正夢か…もしくは、 少女が自分に助けを求めていた、のか? だとしたら、するべきことは? 父親が乱暴に開けたドアを見ると、やはり鍵はかかっていなかった。
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「あのう、」 …聞こえない、のかな。どうしよう。玄関先まで入ってきたは良いけど、これ以上入るのは不審者扱いされても不思議じゃないよな。 どうしたものかと床に目を落として考え込んでいたら人の気配がした。ハッとして前を向くと夢の中の少女がいた。 「お兄さんだれ?」 間近で見る少女はやはりあの子にそっくりだった。首にうっすらと鬱血したような跡がついている。 「あ、の、悲鳴が聞こえて。それで、」
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少女の目に生気はなかった。 闇に深く閉ざされているようで、薄暗く、曇っていた。 「悲鳴なんてないよ。私は元気だよ。心配しないで。大丈夫だから」 言葉には心が伴っていなかった。 いわされているのかもしれない。 「でも、その痣」 「これは悪戯。ぬりえをしたの。私ダメな子。ダメな子」 それきり、少女は口を開かなくなった。
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「ダメな子なんかじゃ…」 ダメな子なんかじゃない。 そう言って少女を慰めようとした時、 「ぬりえをしたの。」 そう呟いた少女の言葉に、とてつもない違和感を感じた。 俺は、玄関先に立ちすくむ夢の少女を押しのけ、部屋に入った。 ドアを開け放った瞬間、鼻を突く、鉄錆臭く生臭い臭い。 振り返った。 少女は俯き、立ちすくんだままだ。 部屋には、凄惨な光景が広がっていた。
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白かったであろう壁が、赤く染まっている。 この二人の血なのかどうか、わからない。 いや、違うだろう。二人は怪我をしているけれど、出血のあとはない。 ふと、異臭のする部屋の隅にある赤黒いカタマリをみつけ、みたくないと思いながらも近づいて行く。 この人の身体から出る血で、壁に絵を描いて…ぬり絵をしている。 この人は、二人の母親だろうか。 もう、息をしていない。 「逃げよう」 俺は二人の手をとった。
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動こうとしない少女の手をとって、力づくで連れて行こうとした。ズブッ… 「……え。」 腰に激痛が走った、振り返ると深々刺さった包丁の柄を持つ男の子が見えた。少女は俺から離れていく。 「やっぱり行けない、私はお父さんに必要とされなかったら…困るの」 俺に刺さっていた包丁を、必死に振り下ろす少女。 「私はダメな子、ゴメンなさい、ゴメンなさい、ゴメンなさい…」 ああ、だめだこの子は狂ってる。
- 完 -