イチゴ一会の効能

ふわふわのスポンジに生クリームをムラなく塗る。
その上に綺麗に生クリームを絞る。
トッピングのイチゴを並べる。
ショートケーキの完成だ。

──でも、これじゃない。
あの時食べたショートケーキはこんな味じゃなかった。
スポンジが違うのだろうか。
生クリームが違うのだろうか。
それとも、イチゴだろうか。

もう一度、あのショートケーキを食べたい。

林檎飴

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あのショートケーキを食べたのは、もう半年以上も前のことだけど、あの味と感動は決して忘れられない。

街の広場に来ていたケーキ専門の可愛らしい移動販売車。あの日は、ただ自分へのご褒美にって普通のショートケーキを買って、夜のデザートに食べた。

一口食べた瞬間に広がるクリームの甘さ。フワフワのスポンジに、甘酸っぱい苺のアクセント……いや、こんな簡単な言葉で表せるものでは無かった。

詩夢

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あのケーキを食べた途端、身体の皮がべろりとむけた心地がして、なにもかもうまくいくと信じられるようになった。
ただのショートケーキなのに。

私は、ケーキを買った移動販売車を探してずいぶん広場に通った。曜日や時間帯を変えてみたりもしたけれど、あれから一度もあの販売車を見たことはない。

買えないのなら自分でつくるしかない。
いつしか私はパティシエになることを夢みるようになっていた。

ミズイロ

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新しい自分へ脱皮するかのような感覚を伴う、あのショートケーキを食べて貰ったなら、きっと、みんなも気持ちが軽くなる。ケーキを作ることで人を幸せにする、パティシエはなんと偉大な職業だろう。

近所のケーキ専門店に弟子入りを志願して、ケーキ作りの基礎を習った。

後はあの味を再現するだけ。ケーキ作りを教えてくれた先生も、例の移動販売車のことは知らないようだった。

美味しさの秘密がきっとそこにある。

aoto

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ある日の休憩中、私は懲りずに広場に向かった。
今更あの販売車に出会えるなんて、期待はしない。でも、もうすっかりあのショートケーキを探すことが日課になってしまった。

ちょっと早めの春を感じさせる、暖かな日差しが降り注ぐ。もちろんお目当ての姿はない。
小さく溜息をついて、広場を出る。ふと顔をあげると、一台の車が横切った。

薄桃の可愛らしい車体。ふわりと優しい、甘やかな香り。間違いない。

セイジ

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やっと見つけた、ずっと探していたその車に向かって一目散に駆け出す。

ショーケースの中には、あの時と同じように可愛らしいケーキ達が並んでいた。

そして、一番隅っこに一つだけ取り残されたショートケーキを見つけると、私の胸は高鳴り、運命さえ感じた。

ショートケーキを一つ、私がそう言うと可愛い店員さんが笑顔でショートケーキを箱に詰めていく。

まるで宝石を扱うかのように、大切に、慎重に。

mokki

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次はいつ来ますか?ショートケーキを受け取った私は思わず聞いていた。

驚く店員さんに、私は興奮気味に話してしまう。ここのショートケーキが忘れられなかったこと、再現したくてケーキ屋に弟子入りしたこと、そして、是非また巡り会いたかったこと等々。

すると店員さんの表情がぱあっと明るくなる。

そこまで感動してくれた方がいたなんて、オーナーもきっと喜びます。

……でも、残念ながら今日が最後なんです。

haduki

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どうしてですか?

そう聞いた私に、店員さんはただ微笑むだけだった。

去っていく薄桃の車を見つめる。あっという間にそれは見えなくなって、右手に持つ箱のショートケーキが早く食べてと言っているようだった。

家に帰っても、私は何故だか、ショートケーキを食べる気になれなかった。

リボンのついた可愛らしい箱は、寂しそうに甘い香りを漂わせている。

私は立ち上がった。

茜音

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広場につづく桜並木が微かに色づき始めていた。
街はいつもと同じ顔をして、私に挨拶をくれる。街は変わらずとも、半年前の自分を振り返ると少しだけ私は変わったのかもしれない。
それとも、大きく変わったのかな?

──ともあれ、二度とあの日のショートケーキを食べることはない。

綺麗におめかししたケーキ箱を渡すと、大切な親友は満面の笑みを湛えた。
「けど、次はあなたの作るケーキが食べたいな」

furusuke

- 完 -

作品情報

イチゴ一会の効能

#34772

リレー期間

1年6ヶ月