「パズルをしよう」 付き合って3年過ぎ。 もう互いに飽きて倦怠期に突入し、そろそろ別れる兆しが見えつつある今日このごろ。 ゴールデンウィークはデートではなく、彼はそう提案した。 1万ピースのパズルを持って。
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いやいや、ちょっと待って。 まず何でパズル? せめて普通のデートにしようよ。 しかし、彼は本気だった。 「このパズル、一万ピースあるんだ。それぞれが五千ピースずつ埋めれば丁度いいと思うんだけど……」 丁度よくないと思う。 「ごめん。一万ピースもあるパズルなんて無理だし、やりたくないから。」 はっきり言ってしまった。 彼は唖然とした顔で私を見た。 「このパズル、君の誕生日プレゼントなんだけど……」
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その言葉に、続けて私も唖然となった。 「…だったら、貴方が作ってくれればいいじゃない」 「それじゃ意味がないんだよ。…あ、そこにあるピース取って」 「あ、はい…って、ちょっとぉ!」 「とりあえず、外枠のピースを先に組んじゃおう」 「…」 と、ふとある奇妙な事に気づいた。 パズルの完成図が描かれた箱が無いのだ。 あるのはピースとそれが入っていたビニール袋、それと彼がついでに買って来た額だけ。
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「ねえ、箱は?」 無意識に外枠のピースを探しながら彼に聞いてみる。 「箱?」 「普通、こういうのって完成図が箱に描かれてるでしょ」 外枠のピースを拾い集めながら、他のピースに絵の手掛かりを探す。散らばったピースには青が多いようだが、それが何なのかは見当もつかない。 「完成図が最初から分かってちゃ駄目なんだよ」 「駄目って。無理でしょ、それじゃ」 「大丈夫。四連休だし」 私はただ、絶句した。
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「四連休だからって無茶だよ」 「いいからいいから」 彼はピースとにらめっこして、一つ一つ丁寧にはめていく。 窓から風が入ってきて、家の中は明るい。2人でカーペットの上でごろごろしながらピースをはめる。 彼の真剣な横顔を、なぜか付き合い始めたばかりの時のように見つめてしまった。 「これ、ほんとに完成するの?」 「するって。緊張するな〜」 「緊張?」 「いや、だって完成したら…」 何なのよー!
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何なのか、気になる…。 「もしかして、一度、完成させたこと有る?」 「うん」 なるほど。それで余裕なのね? 「で。買った時に外箱が有ったでしょう。それ、どうしたの?」 「捨てた」 えぇええええええー! 大丈夫だいじょうぶ、と余裕の笑みで組んで行く。30分で200ピースくらいというのは遅いんだろうか? ちょっと判らない。 彼がトイレに行った。 もしかしたら、スマホにヒントが? と思ったけど…
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はぁ……やっぱり何もない。 彼がいつも使うメモアプリを見たけれど『パズル』という文字列は見つからなかった。 彼も戻って来たし、続きやるか……。 結局1日目は外枠が完成したあと、ペースがガタ落ちしてしまった。だいたい1500ピース弱といったところか。 「んーー、疲れた!あたし先に寝るよ? 」 「そっかぁ。俺はもう少しやってるよ」 「あっそ、じゃおやすみ」 「うん、おやすみ」
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私は昼前に起きた。少し高いベッドの上からカーペットを覗くと彼が一人忙しくパズルをしている。 「……ねぇ、寝た?」 「少しね。カーペットの上で」 彼は私に視線は向けないでパズルに言うように答えた。カーペットの上って…やりながら居眠りって事だよね。そのパズルに何の魅力があるんだろう。しかも二回目でしょ? 「このパズルはとっても魅力的だよ」 まるであたしの心の内を見透かしたような答えにどきりとした。
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完成したのは翌朝だった。あの後、彼は力つきると眠ってしまって、夜中にまた目を覚ましたようだった。私は彼が起きた頃には眠りについていて。なんだかバカみたい。せっかくの連休を互いに違う時間で過ごすなんて。寝覚めの悪い中で見つけたのが、完成したパズルだった。『Happy Birthday』の文字と、私の写真が絵になっている。バーカ。眠そうな彼の肩をギュッと抱きしめて、そのまま寝転んだ。
- 完 -