この世で一番儲からない稼業

ここは「なんでも屋」なんでもやる。成功する保証はないけどね。 この前はおじいさんが、変わった世界を見せてくれた。次の仕事は何だろう。

探求者

13年前

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この間はちょっと愛想がなさ過ぎた。それに報酬もふっかけすぎた。百億だって。 思い出しただけで笑えてくる。 「いらっしゃいませ」 愛想良く言ってみる練習をしてみたんだけど、そこにちょうどお客さんがやってきてビックリしちゃった。 今度はおばあさんみたい。 若い子なんて来ないかもね、こんな店。

yoshihu

13年前

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今日のお客さんの依頼は何だろうか。 楽しみだ。 「今晩は。今日も良い夜だね。なんでも屋のあんたに頼みがあるんだよ。大きな声じゃ言えないけどね。人を1人殺してほしいんだよ。」 殺人依頼か。良くある事だ。 「あたしの旦那、中目黒四郎(75)を始末してほしいのよ。どうも昨日から浮気してるんだよ。あの穀潰し。」 うん?中目黒四郎?どこかで聞いたような。 昨日のじいさんの名前じゃないか!

hamadera

13年前

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「…詳しく聞きましょう。」 「昨日、珍しく花なんか買い込んできたんですよ。あの無愛想強面がそんなことおもいつくはずがないわ。きっと、浮気の罪滅ぼしでしょうね。」 「だから、殺害を?」 「ええ。他の女の所にいくなら。」 なんということだ。 端的に言うと昨日のおじいさんの依頼は、『妻に愛していると伝えたい』。 その年でノロケかシジイ。 と思いつい雑な扱いと少しのアドバイスだけあげて帰したのだ。

aice

13年前

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「昨日から、ね…」 おじいさんに「とのかく!花でも買ってみて、積極的に!」とアドバイスしたのが悪かったかなぁ…。 そんな事を思いながら、おばあさんの依頼を思い出す。「夫を殺してほしい」……。 「はぁ……」 自然と出る重いため息……。 どうすれば良いんだろう。 この夜は他のお客さんも来ず、暇な時間を過ごした。 実行は明後日の夜……。

13年前

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「すまんがまた依頼していいかい?」 気が重いまま迎えた翌日にやってきた依頼人は中目黒のじいさんだった。 あなたは明日私に殺されるんですよね、とは言えず、できるだけ自然と、しかし明らかにぎこちない風で僕は作り笑顔をみせた。 「奥さんに愛は伝えられましたか?今度はなんでしょう?」 「ちょっと聞いてくれるかい? 愛を伝えたかったその理由はね、私の余命がほとんどないからなんだ。つまりー」

naomi

13年前

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「わしは、もう一月ももたない。今まで散々妻に苦労かけた…愛してるなど恥ずかしくて言うまいと思って生きてきたが、死の淵に立った今、妻に今までの感謝を、愛してると伝えたいんじゃ。」 なんて事だ。このじいさんは浮気などやはりしていないと私は確信した。 「お前さんの言う通りに花束を渡したものの妻ときたら、なんの風の吹きまわし?と冷たくあしらうんじゃ。そこでもう一度、お前さんの力を借りたい。」

abee

13年前

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「ピンポーン、何でも屋でーす」 約束の日の夕餉時、普通に訪れた私を老夫婦は目を丸くして迎え入れた。当たり前だが互いに何も言い出せない。私も何も伝えていなかった。 「では早速」 私はおじいさんの後ろに回り、喉元にナイフを突きつけた。 「さあどうぞ、死に際の言葉が一番伝わりますよ。きっちり殺しますから」 おじいさんはおばあさんを見、何かを察したように涙を流した。 「…苦労をかけた。ありがとう、本当に」

znooqy

13年前

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ばあさんは、聞き取れないくらいの唸りをあげるのがやっとだったが、その目がすべてを物語っていた。そこにいた誰もが運命を受け入れる準備が出来た。 私はゆっくりと手に力を込めてばあさんの依頼を果たした。 四郎の遺体の前で崩れ落ちた夫人の背後に忍び寄ると、四郎のもう一つの依頼を果たすため夫人も一緒にあの世へ旅立たせた。 二つの仕事を終えた後、ある重大なミスを犯した事に気がついた。 百億もらうの忘れてた!

黒葉月

13年前

- 完 -