銃声の響く時

視界がぼやけて、周りがよく見えない。音もよく聴こえない。手の先からすうっと、力や体温なんかが、外へ漏れ出すのが分かった。ゆっくり死んでいくとは、こういうことかと、ぼんやり感じた。 あの人は何処に行ったのだろうか。今すぐ追いかけたいが、もう、私にそんな力は残っていない。 さいごに、さいごに、私は

13年前

- 1 -

首かかっているペンダントを握りしめる。 こうしていれば、ずっと一緒な気がした。 何もかもがなくなっていく私において、このペンダントだけが、唯一彼と私を繋ぎ止める鎖になっていたのかもしれない。 薄れていく気力の中、 ペンダントだけは離してしまわないように気をつける。 とうとう意識もなくなるかどうかの時、 コツコツと足音が聞こえてきた。 誰だか分からないが、もう、なにもかもが 遅 す ぎ た

aice

13年前

- 2 -

倒れた女に歩み寄ってもう息はないか確認しにいく。 僕はこいつを撃った。 遅れてきた硝煙の匂いが足を震わせる。 これでいいんだ。 こいつがいなくなれば由美と…。 え? なんで君が死んでいるんだ…? まさか、そんな…

13年前

- 3 -

「嘘…だろ…」と男は何度も呟いた。 そう、彼は由美を発砲してしまったのである。 間違いなく由梨を狙ったのに…なんで… そう、彼は元警察官だ。拳銃の扱いには慣れているからミスしたとは考えにくい。 そしてあることに気づいた。 由美の性格…そう。自分のことより他人が大切だった。銃口が由梨に向けられたのを偶然気づいていたとしたら…迷わずかばうだろう。そう…由美は由梨を守って好きな人に撃たれたのである。

めい◎

12年前

- 4 -

意識が無くなる寸前、君の声が聴こえた。 『由美っ…おいっ』 私の…名前を呼んでくれてるの? 良かった。最期に写真としか君と繋がらないと思った。 皮膚の感覚はもうほとんどないけど、嗅ぎ慣れた君の優しい香りと凄く安心する…腕の中。 冷たくなってく身体に、ポツリと温かい水滴が落ちる。 泣いてるの……? 泣かないで。 ………………笑って? 私の意識が完全に消えた。

moti

12年前

- 5 -

『どんな理由があったって、人が人を殺していい理由なんか、ない。』 由美がよく言っていたことだった。 違う、今回は仕方がなかったんだ。 由梨は、この世にいらない人間だったんだ。 想像の中の由美が僕に問いかけてくる。 『じゃあ、私は?……君は?』 由梨は? 由美が倒れていたすぐそばで、由梨はかたかたと肩を震わせながら、地べたに座り込んでいた。 隠れていた警察官が彼女を捕まえた。

asaya

12年前

- 6 -

「署までご同行願えますか。もちろん、そこのあなたもです」 警察官は震える由梨の手をつかんで、立たせるように引っ張り上げた。違う警察官が横から出てきて、僕の手に手錠をかける。 冷たくなってしまった由美と離れるのが耐えられなくて、何度も手を伸ばした。 だが、もう触ることは叶わない。 かしゃん、という手錠の音が小さく部屋に響く。 僕が最後に見たのは、幸せそうにペンダントを掴んで横たわる由美の姿だった。

- 7 -

「大変でしたね。もう大丈夫ですよ」 警官が私をいたわるように声をかけた。 それでも私は俯いて両手で顔を覆ったまま動かない。 由美は、私を庇って死んでしまった。彼が、健一が殺した。 私と、由美と、健一。3人で遊んだのがもう遠い昔に思える。 彼は抵抗すること無くパトカーに乗せられ、そのまま走り去っていく。 そこでようやく私は息をついた。 顔がにやけてしまって、隠すのが大変だったのだ。

雪中花

9年前

- 8 -

「由美そろそろ起きなさいよね!。」 「いててて、乱暴にしないでよ。死体なのよ私。」 「はいはい、怪我は無いわね。」 「そりゃ当たってないし、それにこれも。」そう言って服を捲ると紺色の防弾チョッキが顔を覗かせた。 「健一吐くかしらね、覚醒剤の横流しの事。」 「吐くんじゃ無い死にそうな顔してたし。」 「まぁそうね。で、次は何処行くの?」 「えっと群馬県警からの依頼よ。」 「なんだまた警察なの?」

かごめ

9年前

- 完 -