初恋は砂の味

川の土手で空を見上げる少年がいた。陸上部と言った感じだろうか。その少年は、ため息をついていた。そこに友達らしき少年が来た。 「どうしたため息なんかついて」 「おぉ、お前か、お前って誰かに恋をしたことあるか?」 「そりゃ、人間だから恋だってするだろ。それがどおした?」 「俺、好きな子ができたんだ。恋って辛いよ。」 「それは確かに」 「まるで富士の樹海にいるみたいだよ。右も左も分からない。」

noname

12年前

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「一歩間違えば死んじゃうかもって?」 「そう、俺にとってこの恋は、命がけなんだよ!」 「何上手い事言ってんだよ」 友達は頭を小突いた。 「お前はその恋とやらをどうしたいんだ?」 「あれ、いきなり核心を突いてきたな…」 「そりゃお前、それが友達たる姿勢だと思ってるからな」 「…お前は出世するよ。」 「俺が頭悪いって時点でその将来は非現実的だがな。まあ置いといて…どうしたいんだ?」 「叶えたい!」

harapeko64

12年前

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意中の相手を尋ねられた少年がその少女の名を口にすると、少年の友達は目を剥いた。 「……マジで言ってる?」 「だから言っただろ?! 命がけの恋なんだよ!」 「精神的なものじゃなかったのかよ! 岬(みさき)にアプローチするのは……物理的に命がけだろ」 岬絢香は、陸上部における不動のエースだった。驚異的な脚力の持ち主で、校内で彼女より速い男子生徒はまずいない。 そして彼女は、大の男嫌いだった。

ぷぷりか

12年前

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「いや、例え走りで追いつけなくても、近づこうとして蹴り飛ばされても、この想いは必ずぶつけたい!これだけは負けない!!」 少年は本気である、友達は呆れながらも笑い応援をしてあげた。 「そうか、頑張れよ。俺は影で応援してやる、あとだな」 友達は、そこで言いかけそうになった口を止めた、少年はどうしたと言いたげな表情である。 「……いや、そのうちわかることさ」 そう言い、友達は苦笑して先に帰ってしまった。

Swan

12年前

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告白から一ヶ月が経った朝、初めて彼女が僕に向かって叫んだ。いつも通りの距離2メートル先から。 「毎日話しかけるの、やめて」 彼女の口調は苛立ちを隠さず、瞳は罪悪感をはっきりと映していた。きっと僕じゃなくても同じ反応。こんなに誠実な人、他に知らない。 「ごめん、それは出来ない。だって、恋ほど簡単で難しくて嬉しくて悲しい事って他に無いよ」 「……時間の無駄だよ」 「どうして?」 「君が男だから」

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彼女のその言葉に、俺はどういう意味か問えずに押し黙るのみであった。どこか聞けない雰囲気だったからだ。例えるならば、そう、ライオンに追いつかれそうなシマウマのような、そんな気持ちになった。 俺はその後、今朝のことを友人に笑いを交えながら話した。すると彼は怒ったような呆れたような表情で俺を見つめた。 「ま、まさか、お前、本当に知らなかったんだな。岬はレズなんじゃないかって噂、学年中で有名じゃないか」

やつざき

12年前

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同性愛者だと?恋を知ったばかりの俺になんてヘビーな。しかしそれは違う。男が嫌いなことは改めて感じたけど女が好きな気配を感じたことはないぞ。男嫌いイコール女が好きにはならない、見てりゃそれくらい分かる。 友人が言う。「あいつは女なのが嫌なんかね」と。どういうことか聞き返す。 「プールに入らないらしいぜ、水着になるの嫌なんじゃね?」 ───君が男だから 岬の言葉が別な意味を持って迫る。 まさか……?

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いやいや、そんなはずはない。俺は馬鹿げた考えを頭の中から振り払った。俺は岬が陸上の試合で走っている姿を見たことがある。ましてや、ユニフォームなんて、"アレ"だぜ? いやいや、俺はそういう目で彼女の走りをみていたわけではないけれど。まあ、ストレッチとかするときとか、陸上部得だな、とか思うけどさ…って、そういうことじゃなくって。 明日、男らしく告白をして、振られよう。その上で理由を教えてもらおう…

aoto

11年前

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「男はね、男と恋愛してればいいの。」 蹴っ飛ばされて今日の距離は5m。彼女は声を張り上げて僕に言った。 彼女が男性嫌いに見えたその理由はあまりにも… あまりにも…納得のいく返事だった。 「君の運命の人は、案外すぐ近くにいるものだよ。」 え?すぐ近くに?…そっか。やっと分かった。 ともに笑って、ともに泣き、時には喧嘩もしたけどいつも一緒に居たあいつ… 僕は友人の元へと駆け出した。

popee

11年前

- 完 -