はんぺん一家のはんぺん紳士

スゴく、気になった。 横断歩道、信号待ち。 ふと、隣りに並んだ人の頭… 白くて四角いモノが乗ってる。 それって…あの… はんぺん⁈ 気になる、なぜ? どうして?はんぺん⁈ 聞きたいけれど勇気が無い。 そんなこんなで信号が青。 向こう側から渡って来た少年達が 「おはようポッチョムさん」 知り合い⁉ ポッチョムさんと呼ばれたはんぺんの人、 恭しくはんぺんを脱帽して挨拶を返した。 紳士的⁉

真月乃

12年前

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ポッチョムさんのかぶるはんぺんは、ロシア人がよくかぶってる帽子のようにも見える。ムズムズする好奇心を抑えられず、口をついて出た言葉。 「はんぺん、ですよね」 彼は私に気付くと、笑顔で答えてくれた。 「よくわかりましたね。はんぺんですよ」 やっぱりはんぺんかぁ。と、その時声がした。 「パパ~っ」 横断歩道の向こう側で、三角のはんぺんをかぶった女の子が手を振ってる。なんかのキャラみたいじゃなイカ!?

saøto

12年前

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しかし、確かにここは歩く人で溢れかえり言わば人の海と例えるのにやぶさかではないが(ドヤ顔で)、決して海や砂浜ではないし、ましてや海の家でもない。横断歩道だ。 彼女の頭の上にあるのもはんぺんならば彼女も人なのでしょう。 なんかちょっと悟りそうになってた。ちがう、気になるのははんぺんだ。 幼女がこちらに走ってくるのを微笑ましく観察する間に質問してみた。 「あの、頭のはんぺんは宗教的理由とかです?」

nanamemae

12年前

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「いやいや、単なる個人的な好みです。ほら、御覧なさい。海老天をかぶる人もいればししゃもを載せてる人もいるでしょう。私の家族は私の好みに合わせてくれてるのですよ」 「という事はあなたの奥様もはんぺんをかぶってみえると…」 「そうです。娘の後ろをついてくる女性、あれが私の妻です」 おお、本当だ。はんぺんのように色白の美人がポッチョムさんのよりはやや小振りのはんぺんを斜めにかぶって歩いて来る。

Noel

12年前

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「ダイコン、ヤスカッタワヨ!」 片言?外人さんかな? 「あの、奥さんって•••」 「いくらだい?あきこ」 「あきこ!?」 「900円だったわよ、今日特売日だったの」 「日本語うめーじゃねーか!そして大根900円はたけーよ!!」 「50本で」 「それは安い!」 「ママーお腹すいたでゲソ」 「この子言っちゃった!」 「帰ってすぐ作るから、頭のはんぺんでも食べてなさい」 「はーい」 「食っていいんだ!」

MARCH

12年前

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「はんぺん、はんぺん!」 少女がはんぺんの端っこを小さな手でぎゅっとつかんで引きちぎった。 それを口に持っていって食べた。 「おいしい?」 「おいしいよ!お兄ちゃんも食べる?」 頭に乗ってるはんぺん… 気になる… 「食べてもいいなら食べようかな」 手を少女の頭に伸ばした瞬間 「だめっ!あげなーい!」 と、ひょいとかわされてしまった。 え、え、え、もらう気満々だったんですけど…

心 花

11年前

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不意にポッチョムさんが俺を見て言った。 「おや、あなたは何も被ってないのですね?」 「ああ、ええ。」 まて、嫌な予感が… おお!?やめろなにすっぁああっっ おもむろにポッチョムさんは懐からはんぺんを取り出し、 俺の最高に決まった髪型に容赦無く乗せたのだった。 「とても似合ってますよ、あぁ、これであなたも私の家族だ。」 あはは、それはどうも。 もう、なんなんだ、これ。 はんぺん怖え…

流零

11年前

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「ちなみに、あなたご家族は?」 「全員ご臨終です」 熱中症という名の。 なんだか嫌な予感がしたのであえて言わない。 「なるほど…それは残念な…」 「兄ちゃんかわゲソ…」 娘さん自分のキャラをよくご存知で。 「ではこれは私からのお裾分けです」 そう言ってポッチョムさんはハンペンを4枚俺に手渡した。いらねぇ…。 「是非ご家族にお供えして下さい」 「ありがとうございます…」 逆効果だった。

コノハ

11年前

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ポッチョムさんは紳士的に一礼すると、家族と共に去って行った。 世の中、変わった人達もいるもんだ。 だが、計五枚のはんぺんを眺めて、悪い気はしなかった。それはこのはんぺんが、彼の優しさで贈られた物だからだ。 「でも見る目はないよな」 もしまた会えたなら、同じくこいつを紳士的に脱帽して挨拶するのもやぶさかではない。そう思いながら、俺は頭上で最高に決まっている髪がわりのとろろ昆布を少し齧った。

構造色

11年前

- 完 -