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SNSで知り合って三年のHN“ぬる助@貰ったアロエ腐った”からSkype通話の呼び出しがかかり、裕一郎は本心、やや面倒に思っていた。 知り合った当初はノリの良い大学生だと認識していたのだが、深く付き合ってみると相当面倒くさいタイプであることがわかった。 「もう生きてたくない。死ぬのは怖いけど」 これが口癖なのだ。 「迷惑はかけたくないからさ、存在自体最初っから無かったことになんねえかなぁ」

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また今回も面倒な話題である。 裕一郎からしてみれば、"ぬる助@貰ったアロエ腐った"の存在自体が消えたところで何ら問題ない。 「それならさぁ、この間ネットサーフィンしてるときに面白そうなの見つけたんだよ。送ってやるから、実況してくれないか?」 裕一郎は、チャットでURLを送りつけた。 いかにも怪しいサイトに、"ぬる助@貰ったアロエ腐った"の相手を任せることにしたのだ。 「なんだよこのサイト…」

aegis

13年前

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《貴方の悩みをスカッと解決!》 簡単な質問を20項目答えて頂き 素晴らしい解決にあなたを導きます! 「あー。コレははっきり言って怪しいの一言なんだが」 と、ぬる助。 「まぁ、無料だしやるだけやってみろよ」 「後で、不本意な請求とか来ないだろうな?」 個人特定する質問しなければ大丈夫だってとなだめ聞かせる。 しぶしぶサイトを確認始めたぬる助。 カタカタカタカタ…… タイプの音が響く─

tamu

12年前

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渋っていた割には順調に進めているらしい。ぬる助側からはタイプの音が聞こえ続ける。 裕一郎も同じサイトページを開いているので、質問の内容を見ることができた。 始めの方は「年齢・性別」などの基本情報から、「食べ物の好き嫌い」「科目の得意不得意」などありがちな質問が続く。 しかし回答を進めるにつれて、「自分を擬音語で表現しろ」「新しい動物を一つ作って説明しろ」などと不可解な質問が増えるのだ。

12年前

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ま、やってるのは俺じゃないんだしいっか。 しばらくするとカタカタと聞こえていた音が止んだ。 回答し終わったのか? 「おーい」 シーンとした数分の後… 「…んー、なんか、変な質問でてきた」と、ぬる助。 「どんな?」 「いま、あなたを見つめているのは誰ですか?だってよ」 確かに変だけど、まぁ、心理テスト的なことなんじゃねーの?そう言ってまた先を促すと、またカタカタと聞こえてきた。 「…何て答えた?」

沖田爽

11年前

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ぬる助の反応はない。 さっきの質問は、回答した人にしか出てこないのかと、裕一郎はほくそ笑む。 面倒な話ばかりしてくるぬる助から、少しの間、解放されるのだ。 裕一郎は、新しいタブを開き別のサイトを観ることにした。 「おかしいな」 タブが開かない。 裕一郎が開けている画面に、ぬる助の回答がカタカタと浮かび上がる。 《今、僕は裕一郎を見つめています。裕一郎は気がついていません。》

11年前

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その回答に、一瞬思考が止まった。 いつもSkypeのカメラはオフにしている。裕一郎の姿は、ぬる助には見えていない筈なのに。 そして、今まで当然見えていなかったぬる助の回答が、裕一郎にも見え出したということは。 (まさか、今同じ画面を開いているやつ全員と共有され出したのか?) 右側の現在閲覧者数は2。ぬる助と裕一郎だけの様で少し安堵した、が。 『問)それが好意を持つ相手であれば、告白するか?』

そうこ

11年前

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「ぬる助?」 声が少し震えた。 呼びかけに、ぬる助からの応答はない。カメラがじっとこちらを見つめる。気味悪くなって、レンズを親指で強く押さえた。 カタカタという無機質なタイプ音が聞こえ始める。 《僕は裕一郎を愛しています。裕一郎も僕を愛しています。裕一郎は気がついていません。教えてあげても良い頃です。》 ドッと鼓動が早くなり、画面を凝視する目が乾く。 そして、20項目めの質問が表示された。

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『問)今、あなたはどこにいますか?』 《僕は今、彼の目の前にいます。》 タイプ音が聞こえる間もなく表示されたそれを見て息が荒くなる。 すると、背後に人の気配を感じて振り返ってみたら、ぬる助がナイフを手に立ち尽くしていた。 「そうか、僕の存在を知ってる人達を消せば、存在自体無かったことにできるんだ。それに……ふられることもない」 「ちょっ、ちょっと待て……」 裕一郎の目に彼の笑みが焼き付いた。

9年前

- 完 -