ダニエル・シャーリーは急いでいた。 彼が額に大粒の汗をぷつぷつと浮かべているのは、此処が温暖なことで知られるパッショニア海上だからと言う為だけではない。慣れない気候には今もへどもどしているが、それよりも焦燥が勝っていた。 故郷から遥か遠く。海を越えたイム・オ・ティフ大陸。そこでは魔法を使える者は極僅か、限られた者達だけだと言う。 オルガモドットへ急がねば。もう再生の日が来てしまう。

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イム・オ・ティフ大陸から西に位置するゴンドラバス大陸。その西南に浮かぶ氷土半島のノルマンチェスタは古くから魔法と自然が共存してきた。 ダニエルは三ヶ月前の聖なる日に、大司教様の神託を受けた。 『オルガモドットへ急げ。総てが無に帰す前に』 タイムリミットは四月一日零時。死者が蘇る日とされている。 ダニエルは強い。動物召喚魔法に長けた優秀な魔法戦士だ。 しかし悲しい哉、極度の方向音痴であった!

ゆりあ

8年前

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再生の日まで、残り一週間。 ダニエルは麓の村エッサに逗留していた。 方向音痴のダニエルがここまでやってこれたのは案内人の手引きによるところが大きい。 しかし、その案内人が足を負傷してしまったのだ。 「足は大丈夫そうなの?ミヒャエル」 「すみません、ダニエル。これ以上はお供できそうにありません。新しい案内人を見繕って頂くか…」 「大丈夫、ミヒャエル。オルガモドットはあともうすぐだろう?」

Utubo

8年前

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ダニエルは明日にでも一人で出発する算段らしい。 「ええ、もうすぐですよ。ああ、でも、あなた一人で行くだなんて。それだけは止めた方が、いえ、あなたがそこまでいうなら」 ミヒャエルは説得を試みたが、歯切れの悪い言葉はダニエルに届かなかった。もうすぐそこだ。焦燥が変にダニエルの気を大きくさせる。 「ここまで来たんだ。近道をしよう」 エッサを出発したダニエルはオルガモドットとは逆方向に道を進んでいく。

aoto

8年前

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